今回は私たちの人生にとって欠かせないお金に関する心理学です。死への恐怖とお金の関連を調べた研究から、なぜ人はお金を貯め込み、無駄遣いしてしまうのかについての知識をシェアしたいと思います。
目次(Contents)
死の恐怖とお金の心理学 札束数えりゃ不安は消える
人が本能的に死の恐怖を感じると、お金に対して保守的で貪欲になることを示した研究があります。不安な人ほどお金を貯め込むようになり、目先の利益を優先して、長期的な投資が出来なくなります。
心理学者トマス・ザレスキュイツ(Tomasz Zaleskiewicz)さんによる、死の恐怖とお金に関しての関連を調べた研究では、死への不安を煽るような質問に対して、被験者を2つのグループに分け、お金を数える事がどう不安に影響しているのかを調査しました。
1,本物の札束を数えてもらうグループ
2,札束と同じサイズのただの紙の束を数えて貰ったグループ
結果は、本物の札束を数えて貰ったグループはただの紙束を数えたグループに比べて死への恐怖が5分の1にまで減少しました。人が本能的に持つ死と恐怖の感情に対して、お金は大きな緩衝剤になっていることが分かりました。
次のトマスさんの研究では、死への不安を感じたとき、人はより多くのお金を欲しくなるのかどうか調べたそうです。今回は恐怖を連想させる質問別に2つのグループに分け、その後で自分がどのぐらいのお金を持っていたら幸福で金持ちだと思うか尋ねました。
1, 死への恐怖を煽るような質問をしたグループ
2, 歯医者に行く時の恐怖を連想させるような質問をしたグループ
結果は死の恐怖を連想した人ほど、より多くのお金がないとお金持ちとは思えず、幸せには感じないと回答しました。人は強い不安や恐怖下に置かれたとき、多くのお金を必要と感じる生き物だということが分かりました。日本において高齢者ほどタンス預金が多いのはなぜなのか。その理由は老い先短い高齢者の人ほど不安を感じ、自分の手元にお金を残して自分自身を守りたいと切望するようになるからです。
また、不安や恐怖が強い人ほど目の前の儲け話に引っかかることが分かっています。1年後に100万円を貰える選択肢と3ヶ月後に50万円を貰えるという選択肢を提示された場合、不安を抱える人の多くが短期で利益が得られる選択肢を選んでしまいます。人は目の前に恐怖があるとすぐに安心したいがために、遠くの富よりも、近くの小銭を選んでしまうのです。
恐怖や不安に置かれると長期的な投資が出来ない人間の性質は厄介です。このブログを開始して一番最初に「貧困は鈍する」というテーマを扱ったルドガー・ブレグマンさんのTED動画の紹介記事を作成しましたが、まさにそこでの話とも繋がっていますね。
その他のお金に関する研究
・全米で行われた世帯調査で、世帯収入と子供の貯金の関連を調べた研究。結果は全く二つの間に相関は無く、子供が貯金を行えるようになるかどうかは子供が育った環境が温かい家庭であるかどうかだけだった。
・理数系、特に算数や数字が得意な人ほどお金の不安を抱えない傾向にある。逆に数字が苦手な人は現在の収入に関係なくお金の不安を抱え込みやすくなる。日常生活でどのように数字が使われているか、数字に関する知識を豊かにすることがお金の不安を低減する。
物質としてのお金の不在が浪費を生む
近年はクレジットカードや仮想通貨、電子マネー(ポイント・おサイフケータイ)など、ますますお金の物質としての姿が見えなくなってきています。このことが実は人の浪費行動の増長に繋がっています。特にクレジットカードの普及はお金の希薄化をもたらし、人の浪費活動を大きく増加させました。クレジットカードの普及で、個人負債者が3倍に増加したというイギリスの研究もあります。
なぜクレジットカードが人を浪費行動に向かわせるのか。その理由はお金を使っている意識を薄めさせるからです。人は財布に入れている現金は意識して管理も慎重になりますが、カードは使っても1ヶ月先に引き下ろされる時差があったり、そもそも現金としてのやりとりもないので、自分がいつどの商品にいくら使ったのかの意識を薄めてしまいます。人は忘れる生き物ですから、なおさら危機感無くカードを使うことで意思決定が甘くなり、余計な物、余分な物、お菓子やジャンクフード、無駄な買い物が増えてしまうのです。
これって他人ごとではなく、私自身もソシャゲのガチャでかなりやらかしちゃった過去があるんですよ。ガチャにハマり、高額なガチャ目的のアイテム・キャラが手に入らないことでカッと熱くなり、一度に何万、何十万単位のお金をガチャに費やしてしまった時がありました。実際の一万円札でそのゲーム内仮想通貨を1万2万出して買うか、と言われたら絶対に買わないですよね?それがクレジットカードでゲーム内のジェムやら召喚石やらに変換されると一気にドカッと浪費してしまう。普段新しいモニターやPS4Pro、カメラや機材を買うかどうか長いあいだ逡巡するのに、それ以上の額をガチャでは一気に使ってしまう。ソシャゲはやっているときは楽しいけれど、後悔したときには時既に遅しです。
現在の消費社会は、お金を直接使わせるのではなく、何か別の物で挟むことで消費への抵抗をなくしているのです。クレジットカードしかり、カジノのプラスチックの板しかり、ゲーム内仮想通貨(ジェム、召喚石)しかり、実際のお金を連想させないモノで決済させることで人々の消費を促しているのです。「実際のお金、現金を意識させないようにする。」たったこれだけのことで人はお金を雑に扱ってしまうのです。
人は物としてのお金に愛着を持ちます。新札、いわゆるピン札のことを考えて貰うと分かるのですが、皆さんもピン札は丁寧に扱いますよね?でもその逆に何度も折れ目がついたヨレヨレのお札はすぐに使ってしまうと思います。
現金が見えない時代、無駄遣いせずお金を守るには、何かを決済するとき常に背後で動いている実際のお金を想像できるかどうかがキーポイントとなります。
応用
今回学んだ知識で以下の応用が出来るかと思います。
・うさんくさい投資話は死への恐怖を連想させてくる物が多いので、不安や恐怖を煽るような営業には事前に警戒しておく。
・節約したいのなら、高額な買い物をする際には現金で支払うようにする。
・子供にお年玉などお金をあげるときはピン札、新札をあげると子供がお金を大切に扱うようになる。
・衝動買いを辞めたいときは死への恐怖を連想することで、一時的に現金を手元に残しておきたい願望を刺激し、購買欲を抑えられる。
・折れ曲がったお札ほど雑に扱ってすぐに浪費してしまう傾向があるので、綺麗な状態のお金を保つ(ピン札しか財布に入れない)ようにすれば無駄遣いを減らせる。
・個人商店で商売繁盛したかったら手数料を払ってでもクレジットカード会社と契約を結ぶべし。
参考
・Money and the fear of death: The symbolic power of money as an existential anxiety buffer
・グーグルスカラーTomasz Zaleskiewicz
・MIND OVER MONEY 193の心理研究でわかったお金に支配されない13の真実 単行本(ソフトカバー) – 2017/6/22 クラウディア・ハモンド (著), 木尾糸己 (翻訳)
・「お金を貯めたいなら死について考えなさい、という衝撃の研究」メンタリストDaiGoの「心理分析してみた!」ニコニコチャンネル放送分
関連記事
・ルドガー・ブレグマン 貧困は「人格の欠如」ではなく「金銭の欠乏」である TED動画
・「コミックでわかる20代から1500万円!積み立て投資でお金を増やす」田中唯 要約まとめ