私たちは「何かを批評する人のことが賢く見えてしまう」傾向があるようです。
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レビュアーの印象はトーンで変わる
心理学者テレサ・アマビール(Teresa M. Amabile)の実験があります。被験者に書評を書く人(レビュアー)の知性と専門知識を評価して貰いました。実験の目的は書評のトーンの変化とその書評家に対する人々の変化がどう変わるのかを調べました。
「ニューヨーク・タイムズ」紙で実際に掲載されていたものを使って、一方的に絶賛する「褒めちぎりバージョン」と批判する「酷評バージョン」になるよう編集されました。そして、被験者のうち無作為に選んだ半数ずつを割り当てて、トーンを変えた書評を読んで貰いました。
褒めちぎりバージョン
「アルビン・ハーターは、見事なまでのデビュー作のフィクションで、才能豊かな若手アメリカ人作家であることを証明した。『長い夜明け』は、とてつもないインパクトに満ちた中編小説 -あえて散文詩と呼んでもいい- である。人生、愛、死という、ごく基本的なテーマをあつかい、それをとことん鮮烈に描いており、どのページにおいても優れた著作の何たるかを示している。」引用元:「ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」が出来る時代」楠木 建 (監訳)
酷評バージョン
「アルビン・ハーターは、何とも退屈なデビュー作のフィクションで、才能のかけらもない若手アメリカ人作家であることを証明した。『長い夜明け』は、まるきりインパクトがない中編小説 -あえて散文詩と呼んでもいい- である。人生、愛、死という、ごく基本的なテーマをあつかい、その描写はあまりにも鮮烈さに欠け、どのページにおいても駄作の何たるかを示している。」引用元:「ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」が出来る時代」楠木 建 (監訳)
どちらも文章の質は同じで、使われている語彙や文法構成も同じでした。では、どちらの書評家(レビュアー)が頭が良さそうに見えたのでしょうか。
結果は批判の勝利
結果は、なんと批判的なトーンの書評家の方が知性を14%も高く評価されました。さらに文学的な専門性は16%も高く評価されました。
これは楽しむだけなら素人でもできますが、批評するのはプロではないといけないと私たちの多くが思い込んでいるからです。「悲観的なことをいう人は、頭が良く見識があるように見られる」のです。
応用例
この知識から自分のアイデアをプレゼンする際に、欠点も一緒にプレゼンするとよく見せることができます。「自分の欠点を自分で判断できる、正直で謙虚な人物だ」と見られ、説得力・訴求力が高まるのです。「謙虚に振る舞ったり、弱点をさらけ出すのは自信が無いと出来ない」と一般的には思われているからなんですね。
考えたこと
ネットでは多くの匿名の批判がありますが、批判をする人の心理には自分を賢く見せたい、という欲求があるのかもしれません。また、テレビのワイドショーでは第三者の立場から自分と関係ないことに対してあーだこーだ言っている番組もありますが、批判することで自尊心を満たす一種のエンタメなのでしょう。
無意識に人は批評する人を賢く見てしまう、というのは面白い発見です。小説やゲームと言った創作物の中に出てくる知的な人物がシニカルに他者に批判的な人物として描かれるのも「批評する人=賢い」という人間心理を反映しているのかもしれないですね。
参考
・「ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」が出来る時代」 アダム・グラント (著) シェリル・サンドバーグ (解説) 楠木 建 (監訳) 三笠書房 (2016/6/24)
・Teresa M. Amabile, “Brilliant But Cruel: Perceptions of Nega tive Evaluators,” Journal of Experimental Social Psychology 19 (1983): 146–56.
・Believe me, I have no idea what I’m talking about: The effects of source certainty on consumer involvement and persuasion By Uma R. Karmarkar, Zakary Tormala