ジャンプ漫画家の創作の秘訣を探るジャンプ流。今回は「暗殺教室」で有名な漫画家、松井優征さんの創作の秘訣を探ります。松井さんが漫画家になった経緯や、創作活動・クリエイティブ活動のヒントとなる知識をまとめました。
「ジャンプ流 vol.6 まるごと 松井優征」 集英社 2016/03/17
目次(Contents)
デビュー秘話
・子供時代はマンガからやや距離を置いた生活をしていた。
・家にマンガがほぼなく、マンガがないのなら自分で描こうと思ったのが始まり。
・小学生の頃は友達の家に行ってマンガを読み、家に帰って何となくそれっぽいマンガを描くといった一人遊びをしていた。
・手元にお手本がないために、必然的にオリジナルの絵を描くようになった。今ではそれが強みに。
・漫画家を意識したのは中学生の頃。落書きを美術の先生に褒められたのがきっかけ。絵で商売ができるようになりたいと思った。
・高校のマンガ部で真剣に漫画家を目指している人がいて影響された。進学校だったけれど、勉強では絶対食っていけないな、と思っていた。別の道がそこで見つかっていたらまた違っていたかも。
・ドラマ感を大事にしている。21歳の時、第51回天下一漫画賞への投稿作「ラビングデッド」で審査員賞を獲得。
・「ジョジョの奇妙な冒険」や「エリア88」などの作品からドラマの描き方や綺麗な物語の終わらせ方を学び、それらの要素を意識するきっかけになった。
・バッドエンド的な手法にハマったけれど、後が続かないのと、誰でも強い印象が残せることに気づいて、極力綺麗な終わらせ方を目指す方向に変わった。
・色んなジャンルの話を書くための下調べをしているときに、世界の形が自分の中で少しずつ埋められていく感覚が持てることが漫画家の醍醐味。
・新聞やニュースから人々の反応を知ることがキャラクターの行動を考えるときの参考になる。
・自分の描いたものでお金を稼いだ、という経験をひたすら欲していた時期があり、小さなイラストでも描かせて貰えないか、と編集さんにお願いしたりもした。結局「君の絵じゃダメだ」と言われて一度もやらさせて貰えなかった。
・マンガ家としてドラフト外、編集部から必要とされていない感じを持っていて、それがつらかった。反骨心を燃やしていた。
・「ボボボーボ・ボーボボ」の澤井啓夫先生の元で3年ほどアシスタントをした。ギャクマンガのイロハや笑いに対する考えをしっかり学ばせて貰った。「誰でも作れる上に、面白さもたかが知れている“人をくさすような笑い”はするな」という先生の言葉はすごく大切にしている。
・アシスタント時代はすごく勉強になったものの、手元にお金が入ったこともあって絶対に漫画家になる!というハングリー精神がなくなりそうで不安だった。このままではダメだ、と思い一念発起してアシスタントを辞め、自分の作品作りに専念した。
・ネームを何度も持っていくよりは、時間をかけて仕上げていった。その分ボツが少なかった。
・技術面の才能は無かったけれど、その分マンガについて考えた時間は人並み以上だった。
・つかみの段階を乗り越え、ちゃんとした物語を描けるようになることは新人作家が乗り越えねばならない関門。
・ジャンプの看板になるのなら、マンガ自体もメディアミックス展開も多くの人に伝わる努力が必要。
・暗殺教室では、子供にウケるにはどうしたらいいかを研究し、制作中も常に強く意識している。セリフも絵も情報量を削り込んで分かりやすくするよう心がけている。
・絵がもっとうまくなりたいけれど、周りと同じやり方で描いても勝負にならないので色んなことを考えてきた。
・自分がやりたいことだけをやって成功するタイプではないことに気づいたあと、顔の見えない読者と対話をする努力をしようと思った。
技術面
・ドラマ感あるストーリー。奇抜と言える世界観の中にしっかりとしたストーリーラインを構築し、シリアスな状況や感動的な出来事を盛り込み、感情を揺さぶる。
・比較的連載初期から大まかな本編の終わり方を決め、物語全体の流れとそれを描くのに必要な話の数を想定。その計算からシリアスや感動といったテーマ性の高い話を全体の中にどう配置するかを計算していく。
・流れのわかりにくいコマ割りやパッと読んで理解しにくい複雑なセリフ回しを減らし、物語をすっきり見せることを徹底。
・「敵が味方になり、味方が敵になるどんでん返し」や「絶対悪の存在」など物語を盛り上げる少年マンガの王道展開を効果的に利用。
・「静」と「動」のギャップ。人が本性をもたらしたときの豹変する変化が重要なシーンを盛り上げる。
・弱者と強者がタッグを組む展開。
・役割や特技を割り当てられたキャラは個性を強調し、ハイライトが当たる形で魅せていく。
・時事ネタやギャグ要素を挟むことで話に緩急をもたらして読者を飽きさせないようにしている。
DVDよりメモ
・紙の裏から見て絵のバランスが崩れていないか確認する。
・連載が進むと慣れから下書きをいい加減にするようになってしまう。
・どんなに綺麗にペンを入れても限界があるので、定規を使ってお客さんに綺麗な絵をみせるように切り替えた。
・人物だと定規は使えないが、単純な造形であれば曲線定規で描いてしまった方が早い。
・ミリペンは強弱がつかないので、線を重ねたり、ペンの種類を変えて強弱を出す。
・ミリペンの特徴は、太い線は太い線と分かりやすいことにある。その分強弱がつかない。
・定規は綺麗にみせるための手段であって、フリーハンドでやるところはやる。
・ペン入れの順番は、太いところから入れると分かりやすい。
・ベタが入る予定の箇所は、アウトラインをマジックのような極太のミリペンで塗る。アシスタントさんが楽できて全体的な時間の節約になる。
・同じ画材ばかり使うと単調な印象になる。ペンのタッチが少しでも違う線を入れると読者には複雑な絵として見える。
・シワは「払い」が重要で、つけペンが重要になる。
・曲線定規だけで書けるデザインは楽。線に迷いがなくなるから。線は普通は迷いが出るもの。楽をしたい方は「殺せんせー」のような単純な形のキャラクターをつくると楽!
・ミリペンはどうしても強弱が弱いため、ぺらっとした絵になってしまう。
・耐水性のホワイトカラーインクを使って、荒れた線を綺麗にする。しばらくインクを置いて、上澄みと下を分離させる。その後上澄みを捨てて、沈殿した濃いホワイトを使うとGペンで線を引くのと同じ感覚でホワイトで線が引ける。
・ホワイトを使って、均一だった線を細くすることで光源がどこにあったのかを示していく。光源のほうを細い線にしていくと全体の質感がアップする。
・太い線と細い線が同居していることが重要。
・太い線ばかりになってしまったら、無理矢理にでもとりあえずどこかに細い線を入れると画っぽくなる。
・漫画家はGペンと丸ペンが基本。しかし連載4年ぐらい続けたが上達せず大変な思いをした。自分で道具を使いこなすというこだわりよりも、お客さんに綺麗な絵を見せることを優先した。絵が下手でも綺麗に見えるように頑張った。うまい人はGペンとか丸ペンとか正統派でやってもいいけれど、もし絵が苦手でも視点を変えて、道具を使って近道でもなんでもいいからやってみることが大事。
・ベタの工程では塗れるところからガっとぬって細かいところは後で埋めていく。
・カラーは白い部分を多めにしてのこす。
・塗り方が単純だと安っぽい絵になる。
・コピックで色を塗るときは薄い色から濃い色を行ったり来たりしながら引き伸ばして塗る。濃いところと薄いところをなめらかにする。
・カラーに限らず、キャラクターデザインにベタの部分を効果的に入れる。連載をしていくと背景入れる暇ないことが多い。画面の中にベタの面積を増やすと、ごかかせるし、画面が締まる。特に主役キャラにはベタが必要で、登場回数が多ければ多いほど真っ白な原稿をごまかすのに時短になる(背景などを追加で描かなくても良くなるため)。
・コピックではムラが出ないように何度も重ねて塗る。コピックはどうしても同じ色を使うので、慣れた人から見るとあの色使ったな、と分かりやすい。あえてわかりにくい色をつかったりしている。
・時間短縮のために色々工夫をこらす
・グッズ化しやすいキャラクターデザイン。メディアミックスを念頭に置いたデザインを狙ってやっている。
・高校の問題集を教室の黒板などの問題の資料に活用している。
・お気に入りのペンがあってもデジタル化が進むと廃版になり、売り切れてしまう事があるので、その時一番多いペンを選ぶ。道具は筆を選ばずという感じでやっている。
・プロットは昔はファミレスとかで手書きで書いていたが、今はパソコンが便利。すぐに思いついたアイデアを差し込めるため。
・連載当時は準備期間3ヶ月以下、全てはストーリーを決めきれなかった。1話目の原稿を描いていく中で徐々にストーリーの大筋を決めてきた。
・綿密にプロットを作れるかで、その後の出来が全然変わってくる。
・ジャンプは年間数人だけしか連載を始められないとても狭き門。日本で一番売れているマンガ雑誌に載ることはほかのどんな幸運でも味わえないチャンス。
マンガ家を目指す人たちへ
・何かが出来なければいけないではなく、どんな弱点もプラスに出来る能力が大事。
・画が下手でも逆手にとってそれをウリにしていく。
・売れる画を無理に目指すのではなく、画力がないことを逆手にとってあえて単純にしたり、どんなものでも、弱点ですらマンガでは長所になる。
・弱者戦略は自分の描いている「暗殺教室」のテーマにもなっている(「…のでぜひ買って読んでみてください…!」とは松井さんの言葉)。
・弱点も使いようによっては武器になる。
・戦うことを諦めなければなにかしらものになる。
関連記事
・ジャンプ流vol.1まるごと鳥山明DVD付分冊マンガ講座 要約・抜粋・まとめ
・ジャンプ流vol.2岸本斉史 NARUTO -ナルト- 創作の秘密に刮目せよ!
・ジャンプ流vol.3尾田栄一郎 ONEPIECE -ワンピース- 創作の秘宝がこの中に! まとめ
・ジャンプ流vol.4 久保帯人BLEACH ブリーチ 物語を紡ぐ秘技とは
・ジャンプ流vol.5 藤巻忠俊 黒子のバスケ まとめ&要約 キセキの舞台裏に迫る!
・ジャンプ流vol.7 堀越耕平 僕のヒーローアカデミア 要約&まとめ
・ジャンプ流vol.8高橋和希 遊☆戯☆王 要約&まとめ
・ジャンプ流vol.9 古舘春一 ハイキュー!! 要約&まとめ
・ジャンプ流vol.10 附田祐斗&佐伯俊 食戟(しょくげき)のソーマ 要約&まとめ
・ジャンプ流vol.11矢吹健太郎 To LOVEる(とらぶる) 要約&まとめ
・ジャンプ流vol.12 和月伸宏 るろうに剣心 要約&まとめ
・ジャンプ流vol.13 古味直志 ニセコイ 要約&まとめ
・ジャンプ流vol.14 森田まさのり ろくでなしBLUES 要約&まとめ
・ジャンプ流vol.15 村田雄介 アイシールド21・ワンパンマン 要約&まとめ
・ジャンプ流vol.16 島袋光年 トリコ 要約&まとめ
・ジャンプ流vol.17 桂正和 I”s 要約&まとめ
・ジャンプ流vol.18 秋本治 「こちら葛飾区公園前派出所」 要約&まとめ
・ジャンプ流 vol.19 大場つぐみ, 小畑健「DEATH NOTE」「 バクマン。」「プラチナエンド」要約&まとめ
・ジャンプ流 vol.20 うすた京介 要約&まとめ
・ジャンプ流vol.21 冨樫 義博 幽☆遊☆白書,HUNTER x HUNTER 要約&まとめ
・ジャンプ流 vol.22 浅田弘幸 テガミバチ 要約&まとめ
・ジャンプ流 vol.23 空知英秋 銀魂 要約&まとめ
・ジャンプ流 vol.24 加藤和恵 青の祓魔師 要約&まとめ
・ジャンプ流 vol.25 荒木飛呂彦 ジョジョの奇妙な冒険 要約&まとめ