ジャンプ流vol.11矢吹健太郎 To LOVEる(とらぶる) 要約&まとめ

ジャンプ漫画家の創作の秘訣を探るジャンプ流。今回は「To LOVEる(とらぶる)」で有名な漫画家、矢吹健太郎さんの創作の秘訣を探ります。矢吹さんが漫画家になった経緯や、創作活動・クリエイティブ活動のヒントとなる知識をまとめました。

書誌情報 
「ジャンプ流 vol.11 まるごと 矢吹健太郎 To LOVEる」 集英社 2016/06/02

デビュー秘話

・「絵のうまいやつ」と学校で有名で、近所でも評判の天才少年だった。
・幼稚園児の頃から絵は大好きで、マンガの真似事のようなものを描き始めたのは小学校4年生くらい。好きなマンガのキャラを自分で動かすイメージで描いていた。
・高校に入ってから興味はイラストに。とにかく絵は描き続けていた
・高校3年の夏前に進路を決めろといわれ、自分の得意なことは絵だと認識した。趣味として長く続けてきた自分の絵がプロの漫画家としてどの程度のレベルなのかを試して見たくて、ジャンプの漫画賞である天下一漫画賞に投稿した。
・マンガのイロハもしらなかったので、ジャンプにマンガ家入門みたいな連載コーナーがあり、それを見て道具を買いそろえた。買ったはいいけれど使い方もよく分からず。Gペンや丸ペンも使いこなせなくて、ボールペンで書いていった。テクニックも知らないので見よう見まねで
・手探りの中で完成させた初めてのマンガが「MOON DUST」。この作品が秋本先生(「こち亀」の作者)の目にとまり、第14回天下一漫画賞審査員特別賞を受賞。運が良かっただけだと思っており、秋本先生が審査員でなければ引っかかっていなかったと思う
・秋本先生が、荒削りだけれど女の子がかわいく書けている、エンターテイメント性もあると評価してくださった。編集部から担当もついた。
・この受賞はプロの漫画家を決定づけるものではなく、まだ高校三年だったのと、担当さんからも学校生活を送りながらでいいのでネームを描いてみましょうと言われただけだった。
・「邪馬台幻想記(やまとげんそうき)」の読みキリ番のネームが完成度が高いと評価され、増刊の赤マルジャンプの掲載会議にかけてみようと担当さんが言ってくれて、このネームが運良く通ってしまった。高校3年の学年末テストの時期で、ネームを原稿にして欲しいと言われてテスト勉強をしながら原稿を描いた。そのとき描いたものが高校卒業後に赤丸ジャンプに掲載され、漫画家デビューした。
・プロになる決意はまだ固まっていなかったため、コンピュータやゲーム系の専門学校に進学した。しかし赤マルジャンプで「邪馬台幻想記(やまとげんそうき)」はアンケートで2位に。早速担当からジャンプ本誌用にもう一度描いて欲しいと依頼が。わざわざ担当さんが地元に来て両親と話をしに来てくれた。その頃自分でもやってみたいという思いも強くなってきて、専門学校を辞めて上京し、本格的に連載を目指した。若いノリで、何も疑うことなく突き進んだ。反対する親を説得し、編集部がやろうといってくれているからやろう!という気持ちだった。
・アシスタント経験として小畑健先生のアシスタントの道を紹介された。ちょうど「ヒカルの碁」の立ち上げ時期だった。自分にとっての絵の師匠は小畑健先生。マンガに対する向き合い方や、ここまで身を削ってやらなくてはいけないのか、というプロのあり方を見せてもらった。(小畑先生は通路で寝ることもあるという…)
・それまでは我流でボールペンで原稿をかくようなノリだったけれど、小畑先生のアシスタント時代にマンガを描く基本や姿勢を教わった
・順風宇満帆にプロの道へ進んだが、デビュー後は苦労も多く。スタッフを入れる仕事場を確保しながらの連載準備だったから大忙し。すぐに締め切りの重圧ものしかかった。
・「邪馬台幻想記(やまとげんそうき)」は短期間で終了。焦って何かをはじめなくてはとおもったのが「Black CAT」。多くのマンガ家はアシスタントをしながら読み切りを描いて自分なりの制作スタイルを学んでいくが、自分にはその期間がなかった。だから連載をしながら自分のスタイルを見つけていくような感じだった。
・「Black Cat」後、読者から女の子キャラへの反応が良く、自分自身も描いていて楽しかったことに気づき、次回作は女の子を主題にした作品にしようと決心。そこで誕生したのが「TO LOVEる(とらぶる)」だった。冷静に協力してくれる第3者の長谷見先生との共同作業を開始することに。自分で考えたキャラの設定を長谷見さんに伝え、シナリオに起こして貰い、他の人が作ったシナリオとして見る事で、客観的に再考できるようになった。読者のことを考える機会も増え、何をやったら喜んでくれるかな?と思う余裕が出来た
・好きで描いた絵でお金を貰えるのは幸せなこと。たくさんの作品、マンガ、アニメ、ゲームといったものを見ておくことも大切だけれど、それ以外の世の中にあるものを見る事も大切。例えば免許を取る前にマンガ家になってしまったので、乗り物の描写にすごく悩んでしまう。自分の引き出しが偏ってしまうことのないように、スポーツでも旅行でも、何でもいいのだけれど自分がやってなかったことこそ積極的にやった方がいい。それらの経験がマンガを描いていく上で宝物となっていく。
・子供時代好きだったマンガは「キン肉マン」。中学生の頃は「聖闘士星矢(せいんとせいや)」が好きでよくマネして描いていた。「聖闘士星矢(せいんとせいや)」は黄金聖闘士の聖衣のデザインを全部覚えて、片っ端から描いたりもした。
・影響をうけたマンガはドラゴンボール。鳥山先生の作画に影響を受けた。今でも画風のベースにドラゴンボールがあると思っている。他にもエヴァンゲリオン、ゴジラ、桂正和先生の描く女の子、DQやFFといったゲーム作品からも影響を受けた。

技術面

・キャラ作りの基本は性格設定から。性格から考える。キャラクターはドラマの推進力であり、作品の魅力に直結する。ポイントはシンプルであること。読者が友達と話すとき、一言で説明できることにこだわっている。
キャラデザインの第一段階はシルエット。まずは一目でそのキャラだと判別させる独自性のある輪郭をデザインする。それに合わせてキャラの性格から服装、持ち物を想像していく。個性と視認性を活かしていく。
しなやかなポージングが色気を生み出す。棒立ちはNG。色気のあるポーズを探求していく。
・普段から女性らしいしぐさを研究し、女性の身体の持つ柔軟さ、曲線の美、動きや目配せ、指先の動き、表情など。それらを少しオーバーなぐらい強調して見せている。オーバーなぐらいのカメラワークで目を奪われるような女性の動きを表現していく。
・S字に近いポージング身体のメリハリが強調され、女性らしさが出る。
・黒と白の対比、シンプルなモノクロで表現する。ベタとホワイトの使い分けを意識する。くっきりとしたベタにどうやってホワイトを入れるかでその物体が持つ質感や厚み、重量感を的確に表現できる。ページ全体を見たときの分かりやすさはベタの使い方にかかってくる。ベタで物の輪郭や構造をはっきり見せ、メリハリのついた絵作りを心がけている。
・トーンはここぞという時こそ使う。メリハリのきいたモノトーンの世界の一部にトーンが貼られると、その空間が他とは異質なものになる。効果としてトーンを使うことを意識している。

DVDより

・下書きを描くときは、シルエットで考えることが多い。
・全体を俯瞰してみたときにシルエットが綺麗か、分かりやすい形になっているかを見ている。身体のうねった形など。
・ペン入れは元々の線を当てにしすぎない。
・仕上げで時間掛けて線を整えるタイプ。ペン入れはスピード重視で行う。
・つるつるのビニールから原稿をゴシゴシこするとその部分がつるつるになって、上からペンも入れやすくなる。
ペン入れした原稿をよりホワイトとベタで整えていくのが最も重要視している。影を付け足したり、荒れた線をホワイトで整えたりする工程が大きく画面映えに関わっている、この作業をしないと僕の絵にならない。
・水滴表現が好き。水滴を加える事で真っ白い部分が肌っぽくなり、立体感が生まれる。ホワイトを使っても水滴を表現すると綺麗な感じになる。
・線の強弱は線に色気を出すのに重要。筆圧が強くないので、一度に強い線を引くのが苦手。なるべく重ねて太い線をいれて、メリハリがつくようにしている。
・ほかでトーンを使わずいざというときにトーンを使うと、「そこが重要なポイントですよ、手間を掛けてますよ」と示すことになる。トーンを貼ることでメリハリをつけている。
・納得がいかなかった絵を切り取り、差し替えをしている。裏で貼り付け、ホワイトで境界線を消せば綺麗に埋まる。
・服のデザインをアシスタントさんが描いたりもする。
・昔仕事中に徹夜していたので、眠くなったら落書きしていた。お題をだして、「うろ覚えであのキャラ描いてみよう」というどれだけ覚えているかというゲームをしていた。
・秋本先生が大恩人。秋本先生の賞をいただいたからデビューできた。ご縁は今も続いている。
・師匠が小畑健さん。デスノートが終わった頃に、一緒に焼肉に行ってデスノートのキャラクター「L」のサインを下書きなしで描いて貰った。
・好きな作品に囲まれていると安心する。子供の頃の気持ちに帰れる。

・自分の作品のフィギュアは届く度に開封して、こうなっているのか、と発見することもある。
・フィギュアはイラストを元に造形している。絵を描いているときはちゃんと立体として成立するかどうかは深く考えていないので、後ろ側とか造形師さんの腕前や、発見を見て学ぶことも多い。
・ほとんど使っていないが、背景の資料は色々ある。
・「るろうに剣心」は背景の処理の仕方、作画面ですごい部分があり、アシスタントに指示するとき参考になる。「I”s」の桂先生は偉大だと思っているのでたまにひっぱりだして凄さを再認識している。
・どの道具も10年以上使っている。
・鏡に映して絵が乱れていないかを確認するために鏡を置いている。
・小畑先生のヒカルの碁のアシスタントさんの周辺が鏡に取り囲まれているぐらい鏡が置かれていた。角度によっていろんな鏡をつかってそれを参照したりチェックしながら描いている。
・ipadを置いてモニターにカメラを映して絵を確認することも多い。
・ネームのネーム、長谷見さんのシナリオを一旦ネームにしないといけない。その時にどういう配分でそれぞれのページに分けて描くか、シナリオ、テキスト配分ネームの設計図をつくる。最近は時間の関係でそのまま原稿のまっしろい紙に向かって書くことも多い。
・一旦どういう絵にするかを決めて描いて、もう一段階線を整える行程を踏む。
・ポーズは一分で浮かぶ時もあれば何時間も考えることがある。シチュエーションが決まっていれば浮かびやすい。話には関係ないけど、突然お色気シーンが入る時が一番悩む。
・唯一アシスタントに入った小畑健先生の仕事場にあったヒカルの碁のコピー原稿(自分が担当したシーンで、仕事場ではゴミ箱に捨てられたものなので)を持ち帰って大事にしている。当時の自分の初心に返って「頑張らなきゃ」という気持ちになる。常に手元に置いており、元気がないときに気持ちを喚起させる為に眺めたりしている。

・ジャンプは青春そのもの。小さい頃のホームビデオには自分の背景にジャンプとかドラゴンボールが写っている。そのジャンプで連載して、色んな作品を描いて、感動というか、未だにジャンプで描いていることのうれしさがある。ジャンプの雑誌広告ページを見るといろいろ活躍している作家さんの中に自分の作品である「To LOVEる」のイラストが一緒に並んでいて、嬉しい。いまだに感動している。特別感は常にある。
これからかくにあたってもジャンプにこだわって描きたい。

マンガ家を目指す人たちへ

・若い頃から連載を始めて、こなしていくことに精一杯だった。自分のマンガをよんでいる人を意識して描くことを意識して集中できなかった。
・「To LOVEる」を描くことでようやく落ち着いて、自分の作品と読者のことを見据えて考えられるようになった。
マンガ家である以上は人に見せることを意識して描くことが大事。自分の描いているものは人にみせるもの、だという意識を持つ。
・マンガ家になってからだと学べないこともたくさんある。色んな経験を積むことは重要。早くして業界に入ったけど、それによって学べなかったことも多い。「あれを経験したらあのシーンが描けたのに。」と思う事も。色んな人生経験を積みつつマンガ家を目指して欲しい。

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