エンターテイメント業界の勉強会、黒川塾。今回はその第67回目「eスポーツ2019 世界で戦うということ」の聴講レポートになります。なぜ日本でeスポーツが拡がっていかないのか、一般の人に響いていかないのか、メディアや組織の問題など新たな発見や気づきがありました。今回も印象に残った点をまとめます。
目次(Contents)
講演者
・kizoku(きぞく): Pro Esports team 野良連合 オーナー。
・但木 一真(ただき かずま):ゲーム業界/eスポーツ業界のアナリスト。日本最大級のコミュニティ『Esportsの会』の共同主宰者。
・ともぞう:実況者。レインボーシックスシージ」公式キャスター。
・黒川文雄:主催・司会、ナビゲーター・コメンテーター
日本のeスポーツは強くはなっている
PC版「レインボーシックス シージ(公式)」の世界大会SixInvitational2019(公式)にてベスト4の成績を達成した野良連合。このことは実はかなり凄いことにも関わらず、日本ではそれほど驚きや反響を生んでいないのだとか。
これはサッカーで言うと日本がベスト4に入ったのと同じようなもの。予算規模で言うと社会人野球がプロ野球と互角以上に対戦しているようなもので、世界の強豪達の中で勝ち上がっていく苦労を考えると価値のあるベスト4だといいます。野良連合のkizokuさんが言うには、コンスタントに安定的に勝ち続けるためにメンタルでのトレーニングが必要で、センスの良い選手達を集め、マインド面での肉付けをしているとのこと。飲み会の席などで訳の分からない無茶ぶりをする事で対応力が身に付いていくというエピソードも聞くことができました。
日本には資本のあるゲーミングチームが少ない
野良連合では、チームに所属する形でアナリストを迎え入れました。コーチとは別に、データを専門的に分析する部隊です。プロ野球やマネーボールの世界と同様、全て記録してデータ化していきます。eスポーツという名前がついているのに、ゲームの設計上勝敗のデータのログを組み入れる設計になっていないため、全てアナログの手作業で記録を取らざるを得ないと言います。エクセルで地道に集めていくので、データの収集と分析にかなりのマンパワーを必要とするのだとか。
組織としてコーチやアナリスト、複数のゲームタイトル(マルチゲーム)に対応できるチームは数える程で、特に日本ではゲーミングチームで資本を持って運営できる所は非常に少ないと言います。
日本と海外での企業ロゴの値段の格差と歴史の差
海外チームと交流する時、お互いにスポンサーのロゴの値段を聞くそうです。やはり、海外は日本比べて企業ロゴの価値の桁が違うのだとか。
これはアメリカやヨーロッパはPCゲームを中心に発達してきた歴史があり、日本は家庭用ゲームを軸に発展してきた歴史があるからです。日本と比べてパソコンでゲームを遊ぶ彼らはeスポーツの歴史が何十年とあり、選手達への単価も自然と高くなっています。
日本では歴史を重ねているプロゲーミングチームが少なく、ベースアップの段階には踏み込まれていません。チームのマネタイズが出来ておらず(全体で50億円もいっていない)、プロゲームチームはまだまだ道楽の範囲で余剰予算を使ってやるしかないとのこと。お金を稼ぐための事業としてのeスポーツは日本では難しく、赤字が出ても仕方が無いという風潮があります。ただ、この風潮は大会リーグ側からの動きがあり、参加しているゲーミングチームは売上げを出し、事業性を担保するように要請されるようになりました。
日本の悪しき習慣
日本の悪しき習慣として、大手のお金を持つ企業は稟議書が存在すること。お金の動きの決定権を持つ役員がゲームを知らないことがあります。eスポーツと訊くと、テトリス?と答えるレベルの知識が無い人達が予算を握っているから、せいぜい部長止まりレベルの予算しか下りないと言います。詳細はオフレコですが、海外の企業ロゴやスポンサードの値段は日本とは桁違いのレベルの金額でした。
「日本はゲーム大国だよね?」と上の世代の方達は言いますが、現実はeスポーツ後進国です。日本はあくまでも家庭用ゲーム、コンシューマーゲーム大国なだけで、世界ではゲームというとパソコンゲームを意味します。PCメーカーが頑張ってたくさんの支援やスポンサー料を提供するのでeスポーツは盛り上がってきました。なぜ日本はeスポーツ後進国なのか。それは日本は家庭用ゲームでゲーム市場が拡大した家庭用ゲーマー大国だからです。
メディアの問題点、志とお金の両方の不足
野良連合が達成したベスト4はNHKのニュース番組にも取り上げられて良いレベルだといいます。それでも現状は日本のeスポーツはゲームユーザー以外の一般の人に見られるようにはなっていません。
また、日本には十数個のゲームメディアがありますが、野良連合の活躍について分析して述べるメディアが不在していることも問題です。なぜ勝てたのか、なぜこのベスト4が凄いのか、その背景や分析をする流れがまだメディアに無いのだと言います。ベスト4を取ったことで花火が打ち上がって終わり、ということでなぜ4位が凄いのかの振り返りが無いのだとか。
あらゆるスポーツはメディアがエコーさせています。どこかのメディアが取り上げて、色んなドラマや背景を見せ、共感や反響の波というエコーを作り出していきます。eスポーツはこの点に関してはまだまだだと言います。
また、eスポーツの特性として、長時間の実況や公式の映像を見続けるしかないこと、網羅的な世界で活躍している選手や対戦スケジュールの情報網が不足していることも問題だそうです。全体を見ず、局所的に一つのゲームタイトルごとに細分化されてしまうため、エコーを起こすことが難しいのだとか。それに加えて志もお金もどちらも足りない現状があるのです。
プレスリリースがあってそれをコピペして写真を入れれば一つの記事が出来ますが、それではエコーは起こりません。あとは関係者インタビューをすればそれで終わりになってしまいます。メディアとしてどんなクリエイティブを作らなければならないかが問題だと言います。
執筆者不足
人々の心にエコーさせるような、分析して深掘りして伝えるメディアの不足は、執筆者不足が原因でもあります。eスポーツは100,200を超える数多くのタイトルがあり、試合が朝から深夜までと長時間になることがあります。一つ一つのタイトルに専門家がいないと深掘り出来ない上に、文才があり、ゲームに詳しい人がとても少ないのだとか。メディアはそういう人材が育っていなし、どこに居るのかも分からないのだとか。ゲームをプレイしている人=表現者とはならないので、言語化の力がまだ追いついていない現状では既に文章を書ける人がeスポーツを学び始める流れが起きつつあります。
一般受けは狙わずともSNSとコミュニティの中で食っていく実力はある
野良連合の強みは拡散力(Twitterのバズ)。野良連合はSNSと集客力では日本で一番あると自負しているそうです。例えば野良連合のパーカーは2万円でしたが、2時間で350着も売れたそうです。狭いコミュニティでも、経済圏が出来てそれで食べて行けたら良いのでは無いか?とのこと。
eスポーツで扱われるタイトルは決して販売本数が多いゲームではありませんが、Youtubeの同時接続数や販売促進力などは尋常ではありません。マネタイズの方法として、なんとかこのコミュニティ力を経済力に結び付けることが出来れば良いのではないか?とのこと。無理に一般メディアやNHKに取り上げられなくても食って行けたら、とのことでした。
これからの時代はインフルエンサーが重要な役割を持ちます。テレビで帯番組持っている芸能人よりも稼げるYoutuberが増えてきており、しかも今は個人がYoutubeで誰かを支援できる時代です。
一般のテレビで流される「eスポーツはスポーツなのか」というのは、あまりにもレベルが低すぎる議論です。実際に同時接続数や拡散力、商品購買のコミットメント力など納得出来るレベルでの定量的な目安はあるので、数値として今のeスポーツは凄いことになっていることを示せますが、その凄さに気づいていない人が多いのだそうです。
決裁者の勉強不足問題
eスポーツの価値が正しく評価されていないのは、企業の予算決裁者がデジタルマーケティング分かっていないのでは?という問題があるといいます。単純な数値として「100万人のフォロワーがいる人間に対して何が出来るのか」の正しい評価、訴求力、エンゲージメント力を企業は正しく評価できていない所が多いそうです。
特にYoutuberの扱いに見られるように、未だに企業の役員は「いや、みんな知らないじゃん!」ってことでテレビに出ている吉本芸人さんの方が知名度があるということでYoutuberを軽んじてしまう。でも一番大事なのはエンゲージメント力。その人らを使う事でどれだけの商品が動き、販売促進になるのか?という視点から考えなくてはなりません。
例えば野良連合ではゲーミングPCがめちゃくちゃ売れるそうです。企業の利益に繋がるのは知名度ではなく、エンゲージメント力。決裁者はただのフォロワー数、知名度しか見ておらず、勉強不足な所が多いとの指摘がありました。
有名人という評価では測れないエンゲージメント力、全人口の数%を持っていく力のある人の扱い方。デジタルマーケティングってどういうこと?若者に訴求するには?など啓蒙が必要な状況だそうです。
JeSUの役割はパイプ役が理想
日本eスポーツ連合JeSUについて。約1年前に出来たeスポーツの団体ですが、現状、まだ期待されている程の動きは無く、オリンピック化やライセンス付与など実際に求められているのとは違う動きしかしていないそうです。
求められているのは、パイプ役。ゲームの版権を持つパブリッシャーと大会側&運営側&プロチーム側を繋ぎ、ちゃんとeスポーツチームや選手達にお金が流れるような繋がり作りをして欲しいとのこと。
間に広告代理店を挟んでしまうと、せっかくの予算がその広告代理店の商品パッケージの一部に組み込まれてしまい、選手達に充分なお金が行かなくなる現状があります。
選手達や大会運営、個人でもゲーム大会をしたいときの権利関係の手続きのパイプ役が求められていますが、「権利関係の手続きは自分でゲームメーカーに行って相談してください」となってしまうので、現状期待されている役割は果たせていないとのことです。
JeSUはCESA(一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会)が母体なので、日本のパブリッシャーにとても近い団体です。全てのパブリッシャーをまとめ、条件や交渉をしてくれる役割が強く求められています。簡単に誰でもサイトから手続きが出来る仕組みを作り、大規模な大会でも小規模な大会でも簡単に権利関係の手続きが出来るようにして、トップからお金がちゃんと現場の人達に流れるような仕組み作りが強く期待されています。
現場としてはプロライセンス付与などはどうでもよく、JeSUにはちゃんと選手達、プレイヤー達が競技に集中できる環境を作ってあげること、運営面や権利面でのeスポーツというコミュニティを支援することが求められています。
今のゲーム業界の問題点など
今のゲーム業界はソーシャルゲームのガチャ課金(超低確率のキャラクターのくじ引き)など目先のお金に飛びつく傾向があります。結局eスポーツやゲーム大会に力を入れるよりも海外で受けが良いゲームやこれまでのシリーズものを出したりガチャで稼いだ方が儲かるとの認識です。
しかし、ソーシャルゲームもレッドオーシャン化しており、長期的な目で見れば今の現金よりもフォロワーの方が重要になります。ゲーム大会でのeスポーツの盛り上がりやSNSやファンコミュニティの価値は、お金という価値経済の先を行っています。ビジネスモデルを変えて行くことをパブリッシャー側からして行かなくてはなりません。新しいものを作って、コミュニティを作ってみんなで盛り上がっていく仕組み作りをする必要があります。eスポーツを上手く使えば新しい世代へのマーケティングが出来、長期的に続く幅広い世代のゲームコミュニティが生まれる可能性があります。
イメージ以上に稼げるプロゲーマー 現物支給では無く金銭面、winwinの商品開発
プロゲーマーチームとしては、支援の方法としては現物支給ではなく金銭が重要だといいます。プロゲーマーは世間のイメージよりも実際には稼げていて、多い人はYoutubeでの収益が月に数百万を維持しているといいます。Amazon欲しいものリストに入れれば翌日買ってくれる人(ファン)もいるし、現物支給の物品などは自分の手持ち資金で買うことが出来るので、意味が無いとのこと。あまりにもプロゲーマーのメディアとしての価値が分かっていない企業からの相談が多いのだそうです。ゴールデンタイムのCMやJリーグ、プロ野球と同じメディアとしての価値があるのにもかかわらず、そこが根本的に分かっていない企業が多いとのこと。現物支給ではなく、プロゲーマーが持つ販促力を活かした金銭面での支援や、共同開発商品での売り上げシェアといったwinwinとなる関係が求められていました。
感想
私自身はeスポーツについては殆ど知識が無く、本格的にeスポーツを視聴したこともありませんが、メディアのあり方やプロゲーマーの世界について深く知れて良かったです。特に私の想像以上にプロゲーマーの世界では大きなお金が動いているんだ、ということを肌身で感じる事が出来ました。
私も個人ブログを運営する以上、メディアについての話は考えさせられました。どのようにしたら価値のある、面白い読ませる記事が書けるのだろう?もっと創意工夫してコツコツ努力していこう、と思いました。
そして世界でのプロゲーマーの盛り上がりや動く金額は想像を大きく超えていて、やはり世界でまずは認められて逆輸入という形で日本に浸透していく流れになるのかな、と思いました。世界で活躍する日本人はいるけれど、それを世界で一番知らないのは日本人。
メディアの役割やデジタルマーケティングやインフルエンサーの価値、これからのeスポーツや金銭面の問題など興味深く話を聞くことができました。
参考・出典
黒川塾聴講レポート記事
・黒川塾65「君たちが生きるためのヒント」古川享 体験レポート
・黒川塾64「ゲーム産業のあれから20年、これから20年」体験レポート 須田剛一、松山洋、黒川文雄
・eスポーツのこれからの展望について分かる!黒川塾63「海外eスポーツ事情とeスポーツの未来に向けて」体験レポート
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・黒川塾59 「eスポーツの展望とゲーム依存症を考察する会」に参加してきた【後編】ガチャと射幸性とゲーム依存
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