人それぞれ、どういったことにやる気が出て、どういった時にやる気が下がるのか違いますよね。心理学者ヘイディー・グラント(Heidi Grant)さんによれば、人のやる気には8つのタイプがあり、そのタイプの違いによってモチベーションや集中力がどの要因で変動するのか人によって違うのだといいます。このタイプを知る事で、自分がどういったときに最大のパフォーマンスを発揮するのか分かるようになります。
目次(Contents)
どうやって“やる気”のタイプ分けをするの?
やる気のタイプ分けは、以下の3つの要素の組み合わせで決まります。
1.マインドセット
マインドセットは乱暴にまとめてしまえば、心の持ちようのことです。以下の2つのタイプのどちらかです。
・証明マインドセット:自分の能力を周りに認めて貰いたい、皆から自分の能力を承認して貰いたいタイプ。
・成長マインドセット:自分の成長が第一で、人からどう思われるかは二の次。自分の能力やスキルが熟達すること、その活動をすることそのものに意義を見いだすタイプ。
2.フォーカス
フォーカスとは、自分が物事の何に焦点を当てているのか?どのような側面を重視するかによる違いです。ちょっと分かりづらいですが、以下の二つのどちらかになります。
・獲得フォーカス:何か大きな事を成し遂げたい、偉大な成果や名誉、お金などを手に入れたいタイプで、リスクに見合うリターンや成果が見えることにやる気が高まります。細部を完璧に詰めるよりもドンドン物事を進めて、スピード感を持って物事をこなしていくのが好き。
・回避フォーカス:損失を回避するのが最重要であり、みんなに乗り遅れたくない、後ろ指を指されたくないという失敗したくないタイプ。何事も慎重に精確さをもって進めたいため、リスクを避けることに重きを置く石橋をたたいて渡るタイプです。これまで通りのルーティン仕事やリスクが少ない状況でパフォーマンスを発揮します。
3.自信
最後は自信です。自信があるか無いかのどちらかに自分を当てはめて見てください。
この3つの傾向の組み合わせて、どんな時にやる気が高まり、どんな時にやる気が下がるのか8つのタイプが決まります。
1.10代の少年少女タイプ(The Teenager) 証明・獲得・自信なし
10代の少年少女(ティーンエイジャー)タイプは証明マインドセット、獲得フォーカス、自信の無い組み合わせです。このタイプは人に認めて貰いたいのだけれど、自信が無いため行動出来ず、プライドも高くて失敗を恐れるためトラブルにも弱いタイプです。情緒が安定しない10代に多いタイプですね。
こうしたタイプは他人からの評価に依存するのではなく、成長マインドセットを身に付け、自分が大きなことを成し遂げたいことを自覚して、本来自分の成し遂げたい大きな目標とはなんなのか?を内省して明確にしていくことでパフォーマンスが高まります。
2.目立ちたがり屋(The Showoff)タイプ 証明・獲得・自信あり
目立ちたがり屋タイプは10代の少年少女タイプが自信を身に付けた形のタイプです(証明マインドセット、獲得フォーカス、自信が高い)。
このタイプはとにかく自慢が好きで、みんなに認めて貰いたいと思っています。(ドラえもんで言うとスネ夫タイプでしょうか。)自分に自信があるから、自分の成功を認めさせようとします。
自分に自信があるため安易に仕事を引き受けたりもしますが、失敗や批判を極度に嫌うため、失敗を回避することで自分を守ろうとするので、こういう人が上司にいる下請けのクリエイティブ職種の人達は大変そうです…。
失敗を隠す傾向が高いので、メンタルも弱い傾向があります。心の回復力(レジリエンス)を高めたり、安請け合いした仕事をキチンと遂行できるようなタスク管理を厳密に守る意識を持ったり、やはり成長マインドセットを身に付けて人からの評価に依存しないことを意識する事でパフォーマンスが安定します。
3.神経症タイプ(The Neurotic) 証明・回避・自信なし
神経症タイプは証明マインドセットと回避フォーカス、自信が無い組み合わせのタイプで、日常のありとあらゆることが不安で、自信も無く失敗もしたくないから行動も出来ないタイプです。リスクに非常に敏感で、予期せぬ事態、トラブルやプレッシャーに弱いです。
今自分が保有している領域、毎日のルーティン仕事だったり、唯一の得意分野だったりに全力投球するタイプで、時には天才のような一点集中型の飛び抜けたパフォーマンスを発揮することもあります。自分を守るために、数少ない自分が得意とする分野にはとてつもない能力を発揮できるタイプです。
職人に向いているタイプですが、やはり成長マインドセットを身に付けたり、失敗を回避するために入念に下調べや準備をして自分を安心させることがパフォーマンスの向上に繋がります。
4.保守タイプ (The Stick in the Mud) 証明・回避・自信あり
保守タイプは証明マインドセット、回避フォーカス、自信あるタイプの組み合わせで、新しい事をするのは嫌いだし、失敗もしたくないけれど、年功序列とかで社会的ステータスは高かったり、給料が沢山貰えているから自分に自信がある高齢者に多く見られるタイプです。
新しい事に苦手意識や嫌悪感を抱く一方で注意深くリスクを避けて他人を疑う傾向があります。得意な分野しかやりたがらず、苦手なことにはそもそも手をつけません。
昔ながらの手法を好むタイプで、歳をとれば多かれ少なかれこういった傾向を持つのは自然でしょう。
こうしたタイプも、成長マインドセットを身に付け、新しいテクノロジーに抵抗があるのだったら、アナログなテクノロジーとの共通点をみつけて段階を踏んで新しいやり方、方法を受け入れていくことがパフォーマンスを高めます。(例:読書や新聞をタブレットで読む、競馬の馬券や宝くじをネットで買ってみる、電子媒体で日々の記録をつけてみる。)
5.頑張り屋タイプ(The Eager Beaver) 成長・獲得・自信なし
頑張り屋タイプは、何か大きな目的を達成したい、大きく成長したいと思っているけれど、自信が無く、いつも努力が空回りしてしまうタイプの組み合わせです(成長マインドセット、獲得フォーカス、自信が無い)。
意欲はとても高いものの、目標を達成するためのスキルや知識が無い状態です。つねに何かが足りない感覚に追われているため、アレもこれも手を出してしまい、器用貧乏になったりもします。自分で努力してしっかり勉強すればどうにかなるだろう、という楽観さも併せ持っています。
欠点と言えば自信が無いことなので、褒められて伸びるタイプです。つねに自分のことを褒めてくれる相手やパートナーを作るとかなりパフォーマンスが向上します。
「もっと色々と頑張らないと」、と自分を追い詰めて色々な物事に手を出してしまい、エネルギーが分散してしまうため、まずは一つの事に落ちついて全エネルギーを注ぎ込めるような環境を構築するとパフォーマンスが高まります。
全てに手をつけたいという衝動をぐっと押さえて、まず今はこれだけをやろう(成し遂げよう)、と選択と集中をすることで力を発揮するタイプです。
6.注意深い見習いタイプ(The Alert Apprentice) 成長・回避・自信なし
注意深い見習いタイプは成長マインドセットと回避フォーカス、自信が無い組み合わせのタイプで、自分の成長に繋がるタスクには意欲的に取り組むものの、無駄やリスクを恐れて行動を起こすのが遅いタイプです。
行動動機もネガティブな感情に基づいていて、ある特定のスキルを身に付けないと会社を首になるとか、食いっぱぐれるとか、そうした最悪な状況を回避するために行動を起こします。
不安が強いため完璧でないと行動に起こせないことも多く、全ての準備が完全に整わないとなかなか重い腰を上げません。
こうしたタイプはあえて自分を追い込むような環境に身を置くか、疑い深い性格のためお世辞ではない本当の欠点や長所を的確に指摘してくれる相手を持つとパフォーマンスが高まります。
7.スタータイプ (The Star Who’s (Almost) Born) 成長・獲得・自信あり
スタータイプは成長マインドセット、獲得フォーカス、自信が高い組み合わせのタイプで、困難を糧にして大きく成長を続けるタイプです。
リスクを恐れず、自信もあるため難しい仕事を乗り越えた時に大きな喜びと自分が誇らしい感覚を得ます。その好循環で飛躍していくタイプです。
欠点としては、成長を実感出来ない簡単なタスクの環境だと退屈してパフォーマンスが低下します。平社員の下っ端業務とかの単調で簡単な仕事だと耐えられないつまらなさを感じてやる気がなくなってしまうタイプです。
何かを成し遂げたい獲得フォーカスも高いので、目の前の作業で自分が何を手に入れ、どの部分が成長するのかを明確に自覚すると強みを発揮できます。
単調な仕事でもタイムアタック的に自己新記録で早く終わらせることを目標にしたり、日常の中で成長を感じられる仕組みを設けてみるのも良いでしょう。
8.エキスパートタイプ(The Expert in the Making) 成長・回避・自信あり
最後は成長マインドセット、回避フォーカス、自信がある組み合わせのエキスパートタイプです。
このタイプは責任感が強く、与えられた仕事を完璧に遂行することに喜びを見いだします。何か自分が大きなものを手に入れるよりも、自分の職責をきっちりと果たして、失敗無く仕事をやりきることに重視します。
技術職など専門家に多いタイプで、自分の専門領域への知識やスキルを高める一方で、ミスはしないように慎重に、精確さをもって仕事を進めていきます。
自分の成長を感じられて、かつ自分の仕事の持つ責任をきっちりとやり遂げる環境で高いパフォーマンスを発揮します。自分がその業務から何を学べるのか、どのような責任や期待が自分に寄せられているのかを明確にすることで本領を発揮します。
性格もやる気も人それぞれ、だから面白い
皆さんはどのタイプでしょうか。私は完全に5番の頑張り屋タイプで、かなり当たっていました。
心理学の面白いところは、こうした人それぞれ持つ違いを言語化&分類して相互理解に役立てられることです。身近な人がどういうタイプなのか考察することで、よりよい方向にコミュニケーションを取ることでお互いの成果も高められると思います。
参考・出典
・Heidi Grant.(2013)THE 8 MOTIVATIONAL CHALLENGES
・The 8 Motivational Challenges