ジャンプ漫画家の創作の秘訣を探るジャンプ流。今回は「ハイキュー!!」で有名な漫画家、古舘春一さんの創作の秘訣を探ります。古舘さんが漫画家になった経緯や、創作活動・クリエイティブ活動のヒントとなる知識をまとめました。
「ジャンプ流 vol.9 まるごと 古舘春一 ハイキュー!!」 集英社 2016/05/02
目次(Contents)
デビュー秘話
・小さいことから元々絵が好きだった。文字へのこだわりは父親から影響を受けた。中学生の頃、父から貰っただいぶ年季の入ったレタリングの本で練習し、手書き新聞コンクールで賞をいただいたこともあった。
・絵と同時に描き文字が好き。
・中学・高校ではバレーボールにどっぷり浸かり、マンガも描き始めた。
・当時最も影響を受けたのが尾田栄一郎先生の「ONE PIECE」。思っていることをはっきり言うのがこんなにかっこいいのか!と衝撃を受けた。
・高校卒業後はデザイン専門学校を経て就職。このときの社会人経験がマンガ家になる上で役に立った。
・広告を作る仕事で、労働時間は週刊連載と大差ない感じだった。デザインではなく編集者に近い感じの仕事で、たまにイラストの仕事もさせていただいた。その時、職場の鬼デザイナーに「これしか描けないの?」とか「君の絵は暗いから別の人に描いて貰ってよ」などと言われたごとが最高に悔しく、自分の引き出しがいかに少ないかを思い知った。
・それ以降、デザイナーやお客さんの要望に応えるために素材のイラスト集や過去の先輩のカットなどを参考に今まで描いたことのないタッチイラストに色々挑戦していくようにした。その鬼デザイナーにもイラストの仕事をふってもらえるようになった。
・宮城の某企業のチラシに当時書いたイラストがまだ使われているかもしれない。あの時の経験が無ければもっと幅の狭い絵になっていた。
・就職先での仕事でいっぱいいっぱいになり、マンガを描くことをサボってしまった。しかし、専門学校の頃からの友達と16ページのネームを一本あげられなかった方が酒をおごるという約束をし、久しぶりにネームを切った。次はそのネームを一ヶ月で完成できなかった方が酒をおごる約束をして、結局その原稿作業中に別の話を思いつき、そっちのネームを始めてしまった。その作品こそジャンプへの初持ち込み作品となった「王様キッド」。ジャンプを選んだのは日本一のマンガ雑誌だったから。
・ジャンプは高い壁。しかし、ここは一発勝負をすべきだと考え、勝負した。その時からいつかはバレーマンガを描くという目標は持っていた。
・持ち込み当日も原稿が完成しておらず、東京へ向かう新幹線の中でセリフを入れる作業をしていた。さらに東京で迷子になり遅刻してしまった。
・どうにか25歳の時に「王様キッド」が第14回JUMPトレジャー新人漫画賞に回され佳作に。なんとか滑り込みセーフという気持ちだった。
・締め切りの恐怖に震えながらデビューし、初連載を飾っていった。
・デビュー作となる「アソビバ。」。サラリーマンをしながらの作業で、ちゃんとした締め切りと初めて対峙する恐怖に苦しんだ。言われた締め切りが月曜日なので、金曜日会社に休みを貰い、金土日で東京に泊まって作業をした。日曜の夜に終わらず、月曜の朝東京から宮城の会社にもう一日休みください、と半泣きで電話をした。その3日がマンガを描いていて最もしんどい瞬間だった。
・「詭弁学派、四ッ谷先輩の怪談。」が初の連載で、勉強のためホラー小説を読み込んだ。それがきっかけで江戸川乱歩が好きになり、会社への通勤中いつも読んでいた。
・読み切り版が本誌に掲載された後連載ネームの作業に入り、一回目の会議に落ちたあたりで仕事を辞め上京した。心配性でびびりな性格の割に、まぁなんとかなると漠然と思っていた。一大決心をしたという感じではなかった。
・プレッシャーの中でバレーマンガに挑んだ時、終わりが始まってしまったと感じていた。これでこけたら日本一の雑誌でバレーマンガを書くことは難しくなるだろうという超マイナス思考からスタート。
・打ち切りが怖いのは今も昔も変わらず。
・読み切りの時はキャラクターが出来ておらず、ネームを直しては会議に落ちるというのを繰り返した。作品は落とされるほど良くなっていったので、連載が通ったときももう1回ぐらい落とされて直しがあっても良かったかも、と思った。
・眠いときにはスタッフさんと会話できることが一番。人としゃべっていると意識が保てる。
・マンガ家に必要な資質はしつこさ。漫画家は、しつこく諦めないことが重要。これは行けると思ったことはない。自分なりにしつこくセリフや構図など、どれか一つでもそういうこだわれる部分があると少なくともその部分は光るし、読者の目にとまる。
・担当からは根性の人と言われている。
マンガ家を目指す人たちへ
・自分はこれが格好いい!自分はこれが好きだ!という部分は前面に出した方がいい。熱量は読者に伝わる。
・読者のことを考えるのは大事だけれど、ウケそうだとか、これが流行っているから、というのはほとんど当たらない。
・直球勝負をしていく。
技術面
・プライベートでもバレーボル好き。誰かを動かしたくて試合展開を描くのではなく、こういう試合展開にしたいから誰を活躍させるかを決めていく
・春の高校バレーのDVDやシューズやボールが仕事場の至る所に。休憩中にボールに触れたり、バレーの放送がされるとテレビをつけて試合を見ながら仕事をすることもある。とにかく研究熱心。
・具体的な行動指針があるとキャラクターの魅力的な造形や性格などの肉付けが出来る。
・セリフ作りにもっとも頭をひねって、考え続けている。セリフから始まり、セリフに終わるマンガ作り。そのキャラクターが言って不自然でないような言葉を選んでいく。
・音の出ないマンガで臨場感を出すのに一役買っているのが描き文字。「ハイキュー!!」の描き文字は多彩で音質や勢い、空気感まで伝わるような工夫がされている。矢印付きの描き文字はキャラの動きを補佐している。
・描き文字だけでなく、写植文字も絵の一部として考える。文字の位置、大きさ、書体などを考慮し、もっとも効果的な1手を選んで配置している。
・バレーボールのスピード感、躍動感を伝えるのに重心が最も重要。動く方向に重心が傾くが、この重心の移動を強調して描き、パースをつけることで迫力を生み出している。
・描き文字やコマ割り、描線や影によっても早さや重さ、臨場感を出す工夫をしている。
・カメラを動かすようにベストな構図を探し出す。決め手となる要素として、そのコマで一番見せたい物や人、動きなどが読者に伝わるかどうか。各コマで伝えるべき事を明確にし、最も効果的な構図を選ぶ。
・影や逆光をつかうことで迫力が生まれ、気迫や集中、威圧感といった強い感情や心象を読者に伝える。ホラーでの連載経験が生きている。
・身体のパーツは全て連動しており、身体にどう力が入っているのか考えながら描くと良い。
DVDより
・一番気をつけているのがフォームで、最初に軽くアタリをつけ、バランスが悪くならないようにしている。
・動きの中でも止まっているところ(ジャンプの頂点など)を抜き取る事がポイント。
・絵を汚さないように左からペン入れ。一番柔らかいタッチが出るGペンを使用。
・背景が入ってもキャラが際立つように輪郭は太めに。
・黒いユニフォームなので、シワを意識しながらベタを塗る。
・コピックで塗っていく。ビニールを敷くと乾きにくくなるためムラにならない。ぼかすときにも効果的。
・反対色(補色)を使うと深みが出る。
・はみ出したくない部分を塗るときは紙を敷く。
・魅力的なキャラクターたちをどう物語の中で転がしていくか試行錯誤していく。
・バレーボールという試合をテーマにしているため、展開がコロコロ変わる。
・取材はよく行く。裏側の人がどう動くか、どういう仕草でどういう会話をしているのか。絵としての資料と言うよりも、人間をずっと見ている。
・頭の中でカメラを回す。
・カラーは好きでたくさんやりたいタイプ。
感想
今年六本木で開かれたジャンプ展vol3で始めて「ハイキュー!!」の作品を見ましたが、まさか創作の裏にこんなドラマがあったとは。特に描き文字については特徴的で、作品の良さを出していると思います。私もデザインスクール時代、文字に関してはみっちり研究していたので、こんなに面白く効果的に描き文字をマンガに活かしているのか、といろいろと参考になりました。
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