ジャンプ漫画家の創作の秘訣を探るジャンプ流。今回は「るろうに剣心」で有名な漫画家、和月伸宏さんの創作の秘訣を探ります。和月さんが漫画家になった経緯や、創作活動・クリエイティブ活動のヒントとなる知識をまとめました。
「ジャンプ流 vol.12 まるごと 和月伸宏 るろうに剣心」 集英社 2016/06/16
目次(Contents)
デビュー秘話
・子供の頃からマンガに触れ、兄の影響でマンガの道が開けた。兄は小学生の時にマンガを描くのを辞めてしまったが、自分はずっと描き続けて、いつしかプロの漫画家を目指すようになった。
・兄が漫画用のペンをプレゼントしてくれ、丸ペンで美術の課題を180Pのロボットマンガで提出した。
・高校1年生の夏休みに描き上げた初投稿の作品でジャンプの月例賞の佳作を受賞し、佐々木さんが担当に。漠然としていた夢が具体的なものとして意識できるようになった。
・ファーストガンダムの世代で、ロボットに対する憧れが強く、ロボットマンガばかり描いていた。
・上京してすぐは担当佐々木さんのススメでマンガの専門学校にいく予定だったが、入学直後に次原先生の仕事場でアシスタントが決まり、全部で10日も出席せず辞めてしまった。
・アシスタントを続けながらデビュー作の制作を続ける二足のわらじ生活。
・精神的重圧はあったが、描き続けた。「北陸幽霊小話」で月例賞の佳作を獲った。
・小畑健先生の元でアシスタントを始めたときに転機が。学生の頃小畑先生の事を知り、自分と同じ新潟出身で、年齢もわずか1歳年上なのでライバル視していたけれど、圧倒的な才能を見せつけられて師匠だと認識するようになった。今も届くことのない小畑先生の背中をずっと目で追い続けている。
・他のマンガ家との交流を欠かさない。この人がこんな感覚で描いたものはこんな作品性になるんだ、というのを知ると発想の勉強になる。作品を描くのに必要な感性や知識が分かってくる。
・背水の陣で臨んだ「るろうに剣心」は大人気作品に。
・マンガ家は、好きがベースにあればとても楽しい職業。
・子供の頃借りて読んでいた少女マンガの影響を受けている。
技術面
・どんなキャラクターでも、自分のある一面の分身。自分のあこがれや空想もその中に含まれる。
・作者の人格や思想が含まれない借り物のキャラクターでは生きた人物像になりえない。
・衣装デザインでは1つのコンセプトを決め、それに沿った造形を作り出す。キャラの趣味や考え方を踏まえていく。
・一本筋が通っていることを重視する。
・名言はキャラクターの想いから生まれる。
・ネームが良ければそのマンガは80パーセントは成功している。
・パーツから思いつき、構成でまとめていく。
・テンポが重要で、いかにだらけることなく読者を引き込んでいくかを意識している。見せたいシーンやセリフを削る勇気も必要になる。
・人物描写で最も気を配るのが目。目はキャラクターの心情を映し出す鏡。1ミリの違いが伝わる情報の違いを生み出す。ペン入れが終わった後、全ての目をチェックしている。
・バトルシーンの中に心情を入れるのはアメコミの影響。
・アイデアは0から生まれるのではなく、考えたことの組み合わせから生まれる。その人がこれまで人生の中で蓄積してきた知識や経験、思考が実を結んだ結晶がひらめき。
・「アイデアノート」を常に持ち歩く。日常生活で興味を持った事柄、事件、言葉などを書き留めておく。とにかくアイデアの種を数多くコレクションしておけば、ひらめきの訪れる確率は高まるし、それらの組み合わせで思いも寄らない独創的なアイデアが生まれる可能性がある。
・ひらめいたアイデアがしっくりこない場合もあるので、ひらめいた時の喜びが先行してしまわないように冷静な目で判断する。
・締め切り直前で追い込まれたときに一番アイデアが思いつく。
・マンガ家はクリエイターとパフォーマーの2面性を持つべき。作る楽しさを満喫するクリエイターの面と、客観性や読者の目を意識してどう伝わるかのパフォーマー的技量が求められる。
DVDより
・気を抜くと頭身が伸びてしまうことがある。手や指を固定して測ったりしている。
・アタリをベースにして下書きをトレースしていく。いい下書きが出来てもペン入れをするときに書き込みが多すぎて分からなくなるので、アタリと下書きを分けるようになった。
・デッサンも大事だけれど、トータルで見ると勢いが大事。特に着物は流れがある。多少インチキでも構わないから、流れが綺麗に見えるラインを模索し目指してく。
・筆入れは面相筆、色塗るときはコピックを使う。コピックが流れないように普通のインクを使う。市販されている面相筆の筆先を調整しながら使う。習字じゃないので重ね塗りもOK。
・長い線は勢いが大事なので、ぐぐっと調整を加えたりしている。
・普通の紙だと綺麗になりすぎてしまうので、画用紙が最もうまくカスレとかがだせていい感じになる。
・紙をくるくる回しながら、手を汚さないようにしながら線を置いていく。
・最初は慣らすために大きなラインから入れる。ペンだと顔から入れることが多いが、筆でやる場合は長いラインからやる。
・短くて細い線は、Sを描くつもりで線を入れると、筆の場合うまく入る。
・色を塗るときに墨が流れるのが怖いため、薄く塗って最終的に調整していく。特に顔は繊細に。
・墨の流れを活かし、大胆に線を引いていく。
・水墨画だとダメだけど、二度描き三度描きをして、筆は大胆に動かして行く。
・筆を使うメリットはごまかしがきくこと。ある程度勢いがあれば細かい所が対象ずれていても、気にしないで貰える。
・墨の良さは気持ちよく勢いつけてすっと行けるところ。そのため細かい絵を描くのには向かない
・墨が流れないように美術で使うヘキサチーフ、定着液を使う。ノリを薄く吹きかけるような道具。
・吹きすぎるとざらざらになって描きにくくなるため、ドライヤーで乾かす。
・コピックが下に移らないように台紙を敷く。強くて塗りやすい色から塗る。(この場合は赤)
・ムラが出ないように何度も重ね塗りする。間違いがきかないので慎重に。
・一段と濃い色で影の部分を塗る。なるべく境界線がでないように丁寧に塗るときも。アニメ塗りだときれいに分けられる。
・ベースの色を軽く前に塗っていくとムラが薄くなり、境界がうっすらとしてなじんでいくのがコピックの面白いところ。
・ムラが少ないとリアル調になるが時間がかかる。明暗の境界がはっきりしているアニメ調は早く塗れる。
・漠然とでもいいので、光がどこから来ているのかを考えると悩まないで色を塗れる。
・光は上から来るので、足下に向かって色を落とした方が安定感や安心感が出る。上と下均一にするのではなく、足下の方は影を強く、濃くしていったほうがいい感じに仕上がる。
・最後に一番濃い色でアクセントを少しずつつけていく。
・白い部分は色を置くよりも影を置く感じで。
・少し白いところを残すと血色がよく見える。
・何度も重ね塗りすると線画ぼやけてしまうので、なるべく線の上には塗らないつもりで塗っていく。
・コピックは色の薄いところから塗っていって、最後に濃いめの色で締める感じ。
・仕上げはミリペンで調整を加えたりしている!筆だけで描いているわけじゃない。
・さらにコピックで流されて使えなかった筆ペンを仕上げに使い、筆タッチの細かな線を追加で入れていく。
・ミリペンで顔などを修正していく。細かくやり過ぎると筆に見えないので適度に上から乗せるつもりで。
・一番薄い色でベースを塗る。次の濃さの色で段をいれて3段目の色でアクセントをいれるイメージ。場合によってはもう1段加えてさらに厚みを加える。大体3色4色で陰影をつける感じでやっている。
・筆の勢いに任せ、基本的には感覚で描いている。
・せっかく線で勢い出したのなら、色塗りも勢いで。光源は漠然と決めているけれど、だからといってそれに縛られないで勢いを大事にする。
・和装はリアルタッチで描くと感触が分からない衣装。リアルで描こうとするとかっこ悪くなっちゃう。そこはあえて嘘を交えながら、どうすればらしくみえるかを模索していく。「るろうに剣心」を連載しているときからずっと考えていたこと。
・「うしおととら」が好きで、何度読んでも感動し、読み始めると止まらない作品。結局最後まで読んでしまってものすごく時間泥棒な作品として自分の中にある。
・ジャンプ作家なら影響を受けたのは富樫先生。「幽遊白書」で悪役の人間や妖怪だけど善人という要素でドラマを組み込んだ。それまでは人型のキャラは善で、悪役のキャラは人外の異形の存在がセオリーだった。それを読んでジャンプマンガでも「ドラマを作れるんだ」と思った。ものすごく感動して、自分でもやりたい気持ちが出てきた。「るろうに剣心」の作品が生まれた根底には幽遊白書からの影響が強い。
・ゲームで言えば「シュタインズゲート」はかなり良かった。話の展開、まとめ方が凄い。
・資料はかなり多めに揃えてある。小畑先生は心の師匠。
・道具は消耗品。手に入る範疇で使える道具を選んでいる。気に入った商品がいつなくなるかもわからないのでアリものを使えるようにしている。
・「絵のアイデアをまとめるアイデアノート」と、「お話・ストーリーをまとめるアイデアノート」で2冊分けでいつも持ち歩いている。
・小畑師匠がいたからジャンプに持ち込むことも出来た。運良く小畑師匠の仕事場にアシスタントとして入ることが出来た。小畑師匠を勝手にライバル視して追っかけた時期もあったけど、結局は師匠という存在に。
・一番読まれている雑誌で切磋琢磨することは、密な時間で、まるで現実に居ない感じだった。マンガの中にずっと飛びこんでいたから気づいたら5年半経ってしまった。
マンガ家を目指す人たちへ
・マンガ家になりたい、なら続かない。どんなマンガを描きたいの?ということを突き詰めて貰いたい。最初はそれこそなんでもよい。既存のマンガに似せたマンガでもいいけれど、それを煮詰めていくことでどんどん自分のマンガにすることが出来る。自分がどんなマンガを描きたいのかをどんどん煮詰めていく。
・マンガ家は目標ではなく、手段。マンガ家はマンガを描くためにマンガ家になるのであって、そこを食い違えない。そこを食い違えると、マンガ家を目指していると言いながら、一向にマンガを描かないようなえせマンガ家志望になってしまう。そこは気をつけてちゃんとマンガを描くことが重要。
感想
私が子供の頃アニメも大ヒットしていた「るろうに剣心」。その作者の生い立ちはなかなか興味深く拝見できました。近年では和月さんの書類送検など騒ぎはあったものの、作品には罪はなく、どのようにして「るろうに剣心」を連載するに至ったのかの過程はクリエイティブな人には参考になるはず。
「アイデアノート」に関してのくだりは私も強く共感するところ。私がこのブログを始めたのもこれまでノートに書きためていた本やゲームから得た知識やアイデアを全部まとめるようなアイデア帳をブログという形に落とし込んでみたかったからです。(ideanoteとシンプルなドメインにしたかったのですが、既にドメインが取得されていたのでcreativeideanoteになった。ちょっと長い…)
幼少期からマンガに熱心に取り組んでいる事もあって、幼少期の頃の作品でもかなり絵が上手いです。画力も書き込みも卓越しており、少女マンガの影響も強く出ていました。
意外だったのが、ここでも小畑健さんの名前が(前回矢吹健太郎さんのところにも出てきた)。小畑さんは漫画家業界では相当絵が卓越している存在ですね。まさか和月さんの師匠だったとは思いもしませんでした。
ジャンプ流をまとめていくと知らない作品に興味を持つきっかけになるし、知っている作品でも意外な漫画家同士のつながりが見えてきて面白いです。
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