ジャンプ漫画家の創作の秘訣を探るジャンプ流。今回は「ニセコイ」で有名な漫画家、古味直志さんの創作の秘訣を探ります。古味さんが漫画家になった経緯や、創作活動・クリエイティブ活動のヒントとなる知識をまとめました。
「ジャンプ流 vol.13 まるごと 古味直志 ニセコイ」 集英社 2016/07/07
目次(Contents)
デビュー秘話
・近所に書店もなく、マンガ雑誌を手にすることがなかった田舎に住んでいた。しかし、幼少期には既に絵を描くことは好きだった。
・小学校で人に自分の絵を褒められた経験をしてから、絵を描くのが楽しくなっていった。マンガ家という職業を知ったのもそのころ。
・上の兄弟が集めていたコミックスを読むことで、マンガの魅力にどっぷりはまっていった。
・マンガ家になりたいと決めたのは、中学生の頃の進路希望調査を書くとき。
・初めて自分の進路に向き合ったとき、マンガ家とは軽々しく書けなかった。兄たちに相談したら本当にやりたいことなら書けばいい、ということになって、マンガ家と書いた。このときが人生のターニングポイントで決意を固めた瞬間だった。
・最初は高校の文化祭で冊子を配布する予定だったが、締め切りに間に合わなかった。しかし責任を果たすために、とにかく作り上げた。これが初めて完成した作品で、作品を一つ描き上げたという事実は未来に繋がる大切な経験となった。
・高校卒業後は専門学校のマンガコースに行った。そこで学んだ内容はあまり役に立たなかったが、夢を同じくする仲間や出会い、独自に続けていたデッサンと模写の訓練がその後の土台を作った。
・専門学校在学中に40ページほどの原稿を完成させジャンプに持ち込みを続けていくが、内容が青年誌向けのため、なんでジャンプに持ってきたのか編集部に言われたという。
・描けるのなら一番有名なジャンプで。しかしジャンプで連載することの厳しさをまだ知らなかった。デビュー作「island」が編集の目にとまった。
・当時は自分の描きたいものと読者がウケるもの・評価されるものとの間に差があり、“おもしろさ”がわからず葛藤の日々を送った。
・以前から温めていたアイデアをもとに作った初連載作品の「ダブルアーツ」。東京に出てくるために急ピッチでの準備した。怖くてしょうが無かったが、担当さんの助けも借りながら、どうにか準備した。アシスタントも一人を除きみんな未経験で、何をどう指示していくのかも分からなかった。
・一番苦労したのがネーム作り。100話先まで連載を続ける感覚で考えていたが、担当の斎藤さんが理論派ですぐに修正された。描きたかったプランがボツとなり、その場その場で最善を考えて話をつくる日々はとても苦しかった。
・連載は続き物として、話が面白くなるような仕組みを作っておかないといけない。読み切り形式で話をまとめるのが得意だったので、それまでごまかせたのが連載形式で裏目に出てしまった。
・描きたいものを感覚で描くだけではダメだという現実は連載開始後の明確な課題となった。
・理論がないと勝負にならないため、自分の考えを人に説明できるように猛勉強をした。
・絵を描くのは感覚でやって良いのだけど、ストーリーを作るのには理論が必要になってくる。これまではストーリー作りも感覚だけでやっていた。
・なんとなくではストーリーマンガはつくれないと知り、壁にぶち当たった。
・連載では先を決めすぎないことが大事。決めすぎると柔軟性を失ってしまう。その場その場で作ることが正解だったりする。
・「途中からでも誰でも入ってこられて読んでいる間は心地がいい」そんな気持ちよく読んで貰えるマンガを描いていきたい。
・自分を客観的にみて、コントロールしないと成長できないことに気づいた。自分が何に向いていて、何に優れていて、どこがダメで、直すべき所はどこなのか。それらを把握して意図的に進む方向を決めないとただ情熱があっても成長は出来ない。
技術面
・Hな表現を封印し、シチュエーションでドキドキさせる演出に。
・ラブコメの基本演出は「あの子が自分を好きか、嫌いかのサスペンス」がセオリー。ニセコイでは男女の心理描写を描き、お互いのドキドキをシチュエーションで加速させる手法をとった。その部分が爽やかさと他作品との差をもたらし、女性読者からの支持も得られた。
・キャラの関係性が整理されていると読みやすくなる。
・キャラの魅力を引き出すパートナーキャラを入れる。そうすることでそのキャラの多様な側面が描ける。
・表情がとても重要で、描きがいのがある要素。ネームにも表情は必須となる。
・描きたいシーンがあればそこを起点につなげていく。
・作業の流れは「セリフ中心の字コンテ→ネーム→下描き」の順。
・セリフをネームに落とす際はフキダシの位置を正確に、セリフが自然と目に入るような分かりやすいコマ運びを意識する。
・カラーイラストを軽くする秘密は主線を暖色にすること。黒に比べて軽いイメージとなり、かわいい仕上がりになる。
・キャラデザインでは帽子をかぶせず、髪の動きなどで軽やかさを出していく。
・コマ割りでは上段と下段のコマを広く、中段を狭くすることで読者に入りやすく出やすいような読みやすい効果を生む。
・大げさなアクションやギャグの挿入で話のテンポを加速し、読者に飽きさせないようにする。
・好きな作業工程はペン入れ。逆に下書きは一番エネルギーを使う。絵は下書きで決まる。
・漫画家になって良かったのは人とは違った特殊な人生を歩めることが面白い。
DVDより
・構図決めは、描き始める前に「こういう絵を描くぞ」というビジョンがあると描きやすくなる。
・一つのイラストの見た目良くするために、「ひねり」というテクニックがある。上半身と下半身で思いっきりひねりを加えたりすることで動きがあって、いい絵になりやすい。
・ペン入れでも線質に対してはとことん気を遣っている。
・丸っこかったり、柔らかそうに見える線を意識している。堅くなったりカクカクしないで。女性らしさ、清潔感はシャープな線で表現していく。
・ほとんどをGペン1本で書ききってしまうが、目をかくときや表情を描くときはミリペンに頼っている。
・一回コピー機を通してから色をつける。
・主線を赤みがかった色に変えている。柔らかい絵の印象が出せ、女の子らしさを出せるようになる。
・目は特に大事な部分。
・影とかにこだわらないタイプで、あまり色を使わないタイプ。服の影とかはシンプルな色だが、瞳の色はこだわって何種類かの色を使っている。小さな中にも情報量をもたせることで、瞳に人の視線を惹き付けようとしている。
・コピックの色味表を手作りしている。コピックにも色味表はついているけれど、つるつるした紙。コピックは塗る紙によって見え方が変わるので、全部自分で手作りをした。
・かなり好きな作品は「となりの怪物くん」。色々と参考にしている。
・ジャンプの一番のお気に入りは「ワンピース」。読んでいなかったらマンガ家になっていなかったと思う。
・「かわいい」の研究のために、かわいい絵柄を描く作家さんの作品はチェックしている。
・トーンは全部番号でついている。トーンの印象からトーンにあだ名をつけている。
・青いペンはアシスタントさんへの指示の時に使う。青は印刷の時に出ないので。
・ペン軸は安すぎて売っていないほどのものを使っている。「マンガ家になるキット」に付属しているオマケのペン軸をずっと使っている。
・製図台は紙に対して視線が直角になる理想を実現させるため。視線と紙が直角であれば紙の角度のせいでパースが取りにくくなることを避けられる。
・シナリオ作業は文字を書き起こしてからネーム作業に入る。2,3日かかる。
・ファンタジーとかバトルとかの少年マンガに憧れてこの世界に入った。本当はそっちを描きたくてこの世界に入った。そういう世界を描いても面白いマンガがぜんぜん描けなくて。その時の担当さんからラブコメを薦められた。「ラブコメを書いているときが一番上手に描けているから、ラブコメで連載をしてみたらどうだ?」と言われた。それまでラブコメなんて書いたことがないし、読んだこともほとんどなかった。
・ジャンプすら売っていない田舎の出身。でもジャンプは知っていて、それしか知らなかったからこそ、この世界に入ってきて頑張っている内に、いつの間にかジャンプで連載をさせてもらっているという機会を貰えた。連載をしていくうちにジャンプの凄さが分かってきた。
マンガ家を目指している人たちへ
・とにかくもう、描くしかない。
・描かないでマンガ家になることは不可能なので、誰でも言えることだけど、とにかく描くこと。同じぐらい遊んでおくこと。友達とゲラゲラ笑ったり、スポーツしたり何か趣味があるならそれに打ち込むのも良い。
・その二つだと思う。遊んで色々経験すること、当人が楽しんでやること。あとは描き続けること。マンガを描くことと遊ぶことの量が同じぐらいあるのが一番いい。
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