ジャンプ流vol.15 村田雄介 アイシールド21・ワンパンマン 要約&まとめ

ジャンプ漫画家の創作の秘訣を探るジャンプ流。今回は「アイシールド21」・「ワンパンマン」などの作品で有名な漫画家、村田雄介さんの創作の秘訣を探ります。村田さんが漫画家になった経緯や、創作活動・クリエイティブ活動のヒントとなる知識をまとめました。

書誌情報 
「ジャンプ流 vol.15 まるごと 村田雄介」 集英社 2016/08/04

デビュー秘話

・小学生時代、鳥山明先生のマンガに衝撃を受ける。最初からイラストレーターや画家ではなくマンガを描きたいと思っていた。
・小学6年生の頃ノート一冊分のマンガを完成させた。
鳥山明先生の絵が大好きで真似をしていたが、どうしても劣化版になってしまう似ていると言われるのが悔しくて、中1のときに他に影響を受けられる絵を探した。その頃、ちょうどストリートファイターIIが登場し、そのどれもがデッサンが秀逸で大いに影響を受けた
・自分の画力を測るバロメーターとして、年に一回本気の一枚というのを描くようになった。小6から20歳まで続けていた。
・16歳の頃にジャンプのホップステップ賞でふたつ年上の山川かおり先生の受賞発表で同世代に先を越されてしまったと思い、持ち込み用作品を描き始めた。
ペンはおぼつかなく、トーンも使ったことがないため、半年ぐらい描き直しを繰り返して納得いく状態になってから持ち込みをした
・黒田硫黄先生の独自のベタの塗り方に大いに影響された。
ストIIのイラストからデッサンを学び、黒田先生のベタの勉強を融合するとアメコミ風の絵になる。現在の画風はその時確立されたもの
・デビューから3年掛けて、「さむいはなし」が赤塚賞準入選作となった。
ネームには自信が無かったが、絶対に賞を取れるようにとことん絵を描き込んだ
・水元あきつぐ先生、うすた京介先生、小畑健先生の元でアシスタントの修行をしたものの、どうしたら面白いマンガが描けるのか分からなくなってしまった
悩んだ末、ネームに関しては他の人にお願いした方がいいのかも知れない、と思った
・原作付きの「アイシールド21」の掲載用作画家を決めるコンペに応募し、勝ち取った。
・面白いマンガの作画作業は刺激的で、マンガが描けないと悩んでいた時期に鈍っていたカンが戻っていくのが楽しかった。
・ずっと悩んでいた”面白いって何だ?“ということも、稲垣先生(アイシールド21の原作者)と当時の担当浅田さんは一致して、“キャラクターが面白いかどうか”でマンガの善し悪しは決まるとのこと。自分には出来ないぐらい、二人のネームを面白いものにしていく過程はすごかった。
・週刊連載を長くこなすことで多くの作画技術は身についたものの、プロの作画家として今後どうしていくのかという意識には及ばず、編集部から紹介された原作者さんの原作に絵を入れていけばいいと受け身の感覚でいた。
・しかし、太田垣康男先生と「曇天・プリズム・ソーラーカー」をやらせていただいたときにプロとしての認識の甘さを痛感。主人公の性格を100%理解できなかった。大学生が主人公なのに、大学に行ったことがないとか、小さな悩みが膨らんで、受動的に絵をつけるだけでいいのか?作画家としてやるべきこととは?自分が描きたいマンガとは?と悩みながらの連載に。
葛藤を抱きつつ連載を進め、Webで連載されていたワンパンマン(http://galaxyheavyblow.web.fc2.com/)に出会い衝撃を受けた。一気に最新話まで読み込み、ONE先生にSNSで直接声をかけた。
・ILM(ジョージルーカスが設立したルーカスフィルムが持つVFXスタジオ)のクリエイターが、「幅広い知識こそが人格を作る、我々が伝えるべきなのは最終的には登場人物の人格だ」と話していて、マンガに大切なのはキャラクターだということを実感した
・ワンパンマンはONE先生の手で既に完成された作品。自分が出来ることは演出でキャラの人格をさらに引き出し、100%を120%にするために、楽しみながら研鑽を積んでいくこと。

技術面

100%の原作を120%へと昇華していく試み
・静と動を描き分け、速度と質量を表現していく。
・勝者が勝つことを読者に納得させる必要がある。
・大胆な構図のポイントは見せたいものだけ大きく描くこと。読者に伝えたい情報に優先順位をつけ、それを基準に最適なアングルを決めていく現実のパースにとらわれすぎず、伝えることを優先する
・メカ表現での間接部への注目は、メカのみならず人体やキャラクターを細密に描く技術へと繋がっている。
・ギャップ表現で別次元の存在であることを強調する。
描くことに対しての飽くなき探究心と絶えることのない愛情。原作に対するリスペクトと読者を心底楽しませたいというサービス精神。この二つが重要
・頭の大きさで遠近感を演出する。人間の頭の大きさはあまり変わらないため、揃っていれば同じ距離に居るように見える。構図や距離によってまちまちにならないよう気をつけて描く。

One先生の創作の秘訣

シンプルなキーワードから発想を広げていく
・主人公を考えて、世界観を考えて、という流れではなく、ワンパン(一撃)で敵を倒すというキーワードであれば主人公がいかにしてワンパンで倒すのか、に終始できる
・先にライバルやヒロインを作ってしまうと、主人公を彼らに寄せざるを得なくなる。
・逆に主人公の個性が強力だと、自動的に周囲の環境ができあがっていく。
・物語が膨らんで、色んな話が同時進行する場合は、シリーズの着地点に向けたプロットを書き、展開を管理している。

DVDより

・下絵をみっちりいれすぎると勢いがなくなる。
・ペン入れしたらラフの方が生き生きした絵が書かれていたことがある。そういう作家さん多いのでは?
・サイタマの書き方もまだ悩んでいる。表紙とか大きな扱いではキメ顔・シリアス顔のサイタマのほうが見栄えがするのでは?と悩んだ時期も。
・アニメ化するにあたり、作画監督さんから集合絵の真ん中に居るサイタマの表情を見て、全然自然体でもいいのでは?と思った。
・塗るのにそんなに時間がかけられない。
・塗り方は色々ある。「アイシールド」の頃、週間連載で時間が無い時の塗り方をしていた。下絵の段階で黒多めでベタをいれる。普段はトーンだけど大きめにベタ入れて画面を無理矢理締まらす手法。モノクロで完成品としてしあげるぐらいの見栄えを心がける。参考は鳥山明先生のドラゴンボール。それぐらいにしてから色を塗る。
鮮やかな色を入れたときにベタたくさん入れた方が映える
・基本はGペンで書いていく、丸ペンが必要なところはGペンをひっくりかえすだけでそのまま細い線が描ける。細い線が丸ペンいらずで便利なテクニック。
・乾かすときはティッシュペーパーで押さえる。小畑健先生のチーフアシスタントがそうしていたので、それを真似している。
・キャラの首が短かった?とか描いてるときは色々と気づかない。他のところペン入れしてあいだ空けて、離れてからみるとバランスおかしいとか色々気づける。
・昔は寝かせるといって、学生の時はいっぺん描いた絵を一日置いたりしていた。今は時間が無いので書きながら寝かしている感覚。一つの箇所を書きながら別の箇所を寝かせるイメージ。
・久保先生は作業がめっちゃ早いのでまいっちゃう。昔から久保先生よくしていただいてて。中などを見せて貰って、うめぇなぁと感心していた。
・メカっぽいところは設定資料をつくっていないので毎回雰囲気で変わってしまう。
・メカとか書くとき、昔は鳥山さんの影響を受けた。機械かけるのいいなぁと。
・ちゃんと製品として動きとかデザインとか考えられる人がすき。ハリウッド映画のアイアンマン、アメコミのロボ原作は漫画はマンガっぽいデザインだけれど、映画に当たって元のマンガのイメージを踏まえつつ、現実にありそうなデザインをしている。ああいう工夫が好き。デザインワークスとかCG集かよくみている。どう描けばもっともらしくなるのか。鳥山明先生は実際に商品として売っていそうな感じがよかった。ああいうの工業デザインというのでしょうけど。
・作業は段階分けした方がいいが…ベタを入れたときのバランスを即座に見たいので、ペン入れしたときにベタも入れちゃう。消しゴムを描けたときにベタが薄くなって困るが、取り込んだときにレベル補正をかけて色のバランスを調整して、ベタを濃くする。
・細かいところを修正するのにペンにホワイト付けて修正する。これができると結構便利。

・裏返して透かせて、絵の修正をチェックしていく。コピー機を借りてコピーした原稿に修正を描き込んでいく。そのほうが楽。デッサンが乱れた足を大胆に消しちゃったりする。足が短すぎたので修正した場合は新しい長めの足を加えて完成品にしていく。
・コピー用紙でも問題無くできる。むしろコピー用紙のほうがかさばらなくて保管が楽。
・大胆に修正する。
・修正すればするほど理想的に仕上がる。何回修正しても大丈夫なように。コピーして修正するのは便利。コピー機の性能が上がってきているため綺麗にできる。

・最初に乗せるコピックは完全に下塗りであり、いかに早く正確に色を埋めるかが勝負。画材的にムラが出来やすい。早く塗らないとムラが出来る。
・顔色が悪いキャラはどれぐらい顔色悪くしていいのか悩む。主役のサイタマが基本色。
金属の写り込みは完全に理屈で描けるので好き。光源がどこにあるかで色が決まる。反射とか、近くに頭があるから頭の色が入るかな、とか。何が映り込むかが理屈で分かるのが金属。
・思い切りが重要。濃い色はバンバン乗せないとスピードが遅くなるいっぽう。怖がらずにバンバン塗って、絵の具の作業時に直してやるぐらいの感じで。連載の時は特に勢いが大事。
3段階のグラデーションをつけている。最初に下塗りをして、暗い部分・影にグラデーション付けて、最後に絵の具でハイライトを入れる。この行程で大体のものの質感は出る
・サイタマの服は原色。
・鳥山明先生の色使いがすごく好き。原色は使うけど、それぞれの色味を抑えてあるからバンバン原色を使ってもまとまりのある画面になる。僕も見よう見まねでまねしていたりする。
・黄色もそんなに派手じゃない黄色を使っている。
・光の当たっているところは白。
・下塗りが終わった水彩画でハイライトや影の部分などに入る。
・道具はどこでも売っている、学校で使うような水彩絵の具を使っている。白は使う量が多いので、ポスターカラーを別に買ってきて使っている。
・絵の具の上からコピック塗っちゃったりもする。応急処置としてガンガンぬっていく。塗りは迷わない方がいい。迷うと時間がかかり過ぎてしまう。
・目に一番神経使う。
・グラデーションを後からベタの上に塗って付けている。
・光っているところのまわりの輪郭線は色をいれて線を潰していく。パソコンだったら一発なのに、アナログで行うとすごく時間がかかる作業。
強調したいところに強めに墨を入れていく
コントラスト。一番誰を見せたいのかを事前にしっかりと決めておく。これを決めておかないと、沈んだ絵になったり、全部明るくてどれを見たら分からない絵になる。コントラストは光の加減を調整することで浮き上がってくる。誰かが浮き出てくる色設計がベスト
・コピックで下塗りして、ハイライト絵の具で光の表現をすることが、単にコピックで彩色するよりも色々できる。色塗りのパターンに多彩さを出していく。

アニメ映画の背景は絵画に近い
・高校の時に買った天野喜孝画集。天野さんは画風が豊富。FF6のイラスト集など、デフォルメ的なカットからリアルなカットまで非常に勉強になる。AKIRAはコマを完全に割って、見開きなし空間をコマの中に作り出すのに非常に参考になる。
・宮崎駿関連の書籍はだいぶ集めた。となりのトトロ、男鹿さんの背景画集はすべてアナログで、絵画レベルの背景。色の塗り方を実際にマネして技法的な部分を吸収するようにしている。

・ヒカルの碁のイラスト集では小畑先生が出された、全てコピックでかかれた画集のこと。アシスタントでお世話になっており、勉強させていただいた。

・投稿した当時、ジャンプを早売りしていた見せに友達と確認しに行って、自分の作品が載っていたことを知り、膝から崩れ落ちた。
・連載300回記念では、トロフィーが大きくなっていく。
・絵に影響を受けた西村キヌさんとTwitterつながりができた。
・東映アニメーションは3ヶ月間の研修を受け、お世話になった。
・夜中画材を切らしたとき、壊れたペン軸を割り箸で作ったのが割と使えた。
・落書きとか仕事中にパッと描いたイラストをTwitterに上げたりしているのは、かつてクラスで落書きを回していた延長上。そういう遊び心が大事。
・ジャンプについては日本一売れているマンガ雑誌という認識。毎週たくさんの読者に一番読んで貰える、高校の時から読んでいる雑誌。持ち込むならそこしかないと考えていた。

漫画家を目指す人たちへ

楽しんで書く。とにかく根本として楽しむことがないとダメ。どうしてもマンガをかいていると才能あるなしの話になる。才能って第三者が見て判断するものだから自分で決められない。それで自分に才能があるのかどうか分からないままダラダラ続けたり、才能あるのに諦めてしまったりしてしまう。自分で判断出来るのは楽しいかどうか。楽しんでいれば長続きして、描いている内にうまくなるので
プロの漫画家の生活は楽しんで書いてられる状況じゃないと心と体を壊してしまう。悩んだ時は自分が楽しめる方向に。どうやったら楽しめるかが重要

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