【書評と感想】「桜井政博のゲームについて思う事 2015 – 2019」ゲーム制作の裏話

桜井政博のゲームについて思うこと 2015-2019

星のカービィ(参考)やスマブラ(参考)の生みの親として知られるゲームデザイナーの桜井政博さんの「桜井政博のゲームについて思う事2015-2019」を読了しました。ゲーム業界やゲームデザイナーに興味がある人には必読とも言える内容になっています。ゲーム雑誌ファミ通の連載コラムをまとめたもので、スマブラSpecialについての裏話も盛り込まれています。

ゲームが好きな人なら読んで楽しめる

全体として2015年から2019年までのゲーム業界の流れを追いながら、桜井さんがプレイしているゲームについての分析・考察を述べたり、ゲームデザインをするに当たっての大事なポイントだったり、上手なプレゼンの方法や数百人規模のプロジェクトをディレクションしていくために何が大切になるのか丁寧な文体で分かりやすく書いています。

本書ならではの項目として、「振り返り」として当時の記事を振り返っているのも新たな視点で見る事ができて面白いです。

2018年のコラムはスマブラスペシャルの話しも多く、権利関係や全員参戦の難しさ実際には強キャラだと攻略サイトやWikiで議論されているキャラでも実際の対戦データの統計を見るとそうでも無かったり、色んな裏話が読めました。

大人になると時間の都合上ゲームを離れる人も多いですが、桜井さんはゲームデザイナーという職業柄、研究のため日々時間を捻出して新旧問わず多くのゲームをプレイしています。多忙を極める立場の人だと推測されますが、ちゃんと時間を捻出してインディーズも含めた様々なゲームに接するバイタリティは尊敬に値します。私もゲームが大好きですが、忙しくなるとなかなか出来ない時があるので、桜井さんを見習って切り替え上手になりたいと思いました。

批判や悪口合戦は日本が平和な証拠

私が印象に残ったコラムは桜井さんが山本さほ著の「無慈悲な8bit」の行きすぎたバッシングの話について触れた回。クリエイターなら誰もが直面するであろうネットの悪口や誹謗中傷について、桜井さんの考え方がなるほどな、と思うものでした。

世界で見ても特に日本はネットでの批判や悪口合戦、アンチなどの活動が悪目立ちしており、Amazonのレビューでも軒並み低評価、ゲーム会社の公式Youtubeでは日本だけコメントが禁止処理されているという有様です。クリエイターも人の子。それが原因で実際に仕事を辞めてしまう人も多いのだそう

そこで桜井さんは、お金を出してくれた人達が声を出したり批判する事はもちろん自由で尊重するべきことだけれど、あまりにも過度に行き過ぎて弱い者いじめの構造になるのはちょっと違うのではないか、としています。言論の自由はあるけれど人や組織をむやみに攻撃して良い権利は無いわけですね。そうしたネガティブな意見は全くの部外者が真に受け鵜呑みにしてしまいます。ゲーム業界がこんなに叩きや煽りが当たり前の世界なら目指していないかもしれない。誰かの怒りの声と共に、誰かの楽しくなれる未来が世界のどこかで失われているのです。

ものをクリエイトすることは想像以上に大変な仕事。もちろん消費者側はそんなことは知ったこっちゃありません。桜井さんもたくさんの意見を受け取る側ですが、クリエイターとしてしっかりと意見を言ってくれたことは格好いいなぁと思いました。作品を提供する側は立場が圧倒的に不利です。勇気を出してクリエイター側の心の叫びを主張することは度胸がいります。

ただ世界を見ればこういう話しが出来るだけ日本が豊かで平和ということです。日本では明日死ぬ可能性は限りなく低く、ゲームを楽しむことが出来る豊かな国です。世界を見ればいつ死ぬかもしれない紛争地帯もあるわけです。そんな中ネットの世界の批判や悪口などは些細なこと。もっと広い世界を見れば色んな価値観があって、そうした価値観に触れることでこうした話が小さく見えてくるのだとか。

ゲーム制作の裏話で印象に残ったこと

内容がどれも興味深く、全部は紹介しきれないのですがゲーム制作の裏話で印象に残ったことをまとめます。

発売日の延期はデバッグが追いついて居ないことが原因:クオリティアップのための延期はデバッグが追いついてないことが原因が多いとのこと。PS4などの場合は実機でプレイヤーと同じ環境でプレイしてプラチナトロフィー(全ての実績)が取れる事を保証しなくてはならないため、日本と海外でセーブデータを共有してゲームを進めるのだとか。一つの修正を行うと別のプログラムにも派生してしまうため、制作の後半は直したい&もっと盛り込みたい要素があっても変更は不可能に。多くの時間はひたすらバグが無いかデバッグに割り当てられるのだとか。プラチナトロフィーが非常に困難なゲームが多くありますが、発売側はわざわざ膨大な手間と時間をかけてプラチナトロフィー入手の確認作業をしているのだと思うと…。
地形のモデリングは想像以上に工数が掛かる:スマブラ関連のトピックですが、ステージにかかる工数は一般に思われているよりはるかに大変な作業とのこと。スマブラではそれぞれのステージに終点化(シンプルなステージに形態変化)出来るようになっていますが、最も時間が掛かるのはこのステージ制作の作業だそうです。

まとめ

ゲーム制作の裏側やクリエイターとしての視点が見られるゲームコラムとして素晴らしい本。思っても見なかった作品同士の共通点の比較など、読ませるコラムとしてもクオリティが高いです。ゲームデザイナーを目指している人なら必読の内容だと思います。クリエイティブな事に興味があったり、単にゲームが好きな人が読んでも面白くて興味深い内容が満載。得るものが多い読書でした。

参考・出典

ゲーム開発者・桜井政博氏の驚きのゲーム収納術とは?──数千本のソフトの内容は体験として記憶に残っている – 電ファミニコゲーマー

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