「メタルギアソリッドシリーズ」などの作品で有名なゲームデザイナー小島秀夫(Wiki)さんの「創作する遺伝子 僕が愛したMEMEたち」を読了しました。実は私は小島秀夫監督の作品にはほとんど触れてきていませんが(「デスストランディング」は序盤で止まった)、彼のことは世界中に多くのファンがいる作家性の強いゲーム作品を生み出す人として認識しています。今回、世界的に評価されている彼が自らのルーツとなる作品を紹介しているという事で好奇心から手に取ってみました。元々当サイト(creativeideanote)は誰かのクリエイティブの源泉や思考過程に興味があり、メモとしてまとめておきたいという思いから生まれたこともあったので、本書の企画は私に刺さるものでした。
目次(Contents)
MEME(ミーム)って何?
本書のタイトルにもなっているMEME(ミーム)は元々動物行動学者・進化生物学者であるリチャード・ドーキンスが著作「利己的な遺伝子」で提唱した概念で、文化的な情報や進化発展を遺伝子(GENE)との類推から考察するというもの。言い換えれば文化の遺伝子とも言えるMEME(ミーム)はその人の思考や創作活動の源泉となった作品群のことで、本書の中でのミーム(文化的遺伝子)も人が本や映画といった創作物と繋がる事で遺伝子(GENE)のように誰かに受け継がれていく文化の継承の事です。誰かが作ったクリエイティブに触れたときに感じる感情、思考、理念、アイデア、興奮といったものが他の誰かの創作に影響を与え、延々と受け継がれていく…。私はMEMEという概念を本書で初めて知ったので、こうした考えもあるのか、と興味深く本書を読んでいきました。
小島監督の個人的体験を踏まえた作品紹介コラムが面白い。書評やレビューを書く人間として気づきを得た。
本書は小島秀夫監督が影響を受けた作品(本や映画)を彼の個人的な体験と絡めて紹介しているのですが、それがとても面白かった。ブログで文章を書く人間の端くれとして、作品紹介やレビューはここまで面白く書けるのか、と感心しきりでした。そして個人的に大きな気づきを得ました。
ブログをある程度続けていて、コンテンツに悩むことがあります。特に私の場合は本のレビュー記事で悩んでいて。以前だとつい知識の要約やまとめに走ってしまいがちなのですが、要約に偏りすぎれば出版社に許諾をとった本の要約サイトflier(フライヤー)などには勝てないですし、そもそも本を買わなくても良いぐらい知識をまとめてしまうと出版社や著者が持つ翻案権の侵害になってしまいアカンだろうと。著作権で認められたのは引用であり、あくまでもその人個人の、その本・作品と接したことで得た知見や感じた事をどう自分の体験や経験、実践やエピソードと絡めて文章として落としこむかが重要。結局は自分フィルターが最も大事で、自分という存在を通してしか書けない文章を書かないとダメなんじゃ無いかと気づいたんですよね(心理学知識や学術研究系は突き詰めると抽象化した知識になってシンプルにどれも似てしまうけれど、それでも個人的体験や考察などのフィルターは必要だと今は思っています)。本書は小島秀夫さんの個人的エピソードが散りばめられた評論集であり、彼の自分フィルターを通した読み応えのある文章がまとめられていて、私もこのぐらいのレビューを書かないとダメだな、と反省しながら読みました。本書で紹介された作品は殆ど私の知らないものですが、小島監督の個人的な思いがこめられた紹介文を読んでいると自分も読みたくなる、映画を見たくなる、という感情に突き動かされます。私からすれば本書は作品紹介記事のお手本集といった感じです。
紹介されていた本、映画リスト
本書では以下の作品が紹介されています。ジャンルは多岐にわたりますがSF系の作品が印象に残りました。小島監督の個人的エピソードを上手に絡めて紹介されており、元作品を知らない人でも興味を抱ける内容となっています。
「星を継ぐもの」ジェイムズ・P・ホーガン
「闇よ、我が手を取りたまえ」デニス・ヘレイン
「ジェニィ」ポール・ギャリコ
「錦繍(きんしゅう)」宮本輝
「砂の女」安部公房
「初秋」ロバート・B・パーカー
「そして誰もいなくなった」アガサ・クリスティー
「山月記」中島敦
「阪急電車」有川浩
「オルゴォル」朱川湊人
「サトリ」ドン・ウィンズロウ
「コインロッカー・ベイビーズ」村上龍
「復活の日」小松左京
「漂流」吉村昭
「呪われた町」スティーヴン・キング
「ミッケ!シリーズ」ウォルター・ウィック
「星やどりの声」朝井リョウ
「開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU」皆川 博子
「悪童日記」「ふたりの証拠」「第三の嘘」アゴタ・クリストフ
「神々の山嶺」夢枕獏
「都市と都市」チャイナ・ミエヴィル
「火車」宮部みゆき
「シャドー81」ルシアン・ネイハム
「メタルギア ソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット」伊藤 計劃
「仮面ライダー1971(カラー完全版)BOX」石ノ森章太郎
「漂流教室」楳図かずお
「海街diary」吉田秋生
「ひとりぼっち」クリストフ・シャブテ
「死刑台のエレベーター」ルイ・マル
「アイガー北壁」 フィリップ・シュテルツル監督
「タクシードライバー」マーティン・スコセッシ監督
「刑事コロンボ 第三の終章」ウィリアム リンク、リチャード レビンソン
「日曜洋画劇場 40周年記念 淀川長治の名画解説」
「奥さまは魔女」
「大草原の小さな家」
「クレヨンしんちゃん」
「ウルトラセブン」
「2001夜物語 原型版」星野 之宣
「ブレードランナー」リドリー・スコット監督
「宇宙戦艦ヤマト」
「JOY DIVISION」
「社長 島耕作」弘兼 憲史
「2001年宇宙の旅」スタンリー・キューブリック監督
「天才バカボン」赤塚 不二夫
「WALKMAN」Sony
「iPod」Apple
感想:書評やレビューのお手本となる文章。色んな体験を自分フィルターを通してアウトプットしていく事の重要性を学んだ一冊。
この本は小島秀夫さんのファンのみならず、何か物作りをしている人の心に刺さる内容だと思います。小島さんのファンであれば、彼がどういう作品に触れてきて今の彼が作られたのかその源泉を知ることが出来ますし、ブロガーやライターといった文章を書くことをしている人なら個人エピソードを交えた秀逸な評論文の参考として読んでおきたい一冊という感想です。
かつて小島さんはまるで活字を読まなかったらしく、ある時を境に本を読むようになったとか。その経緯も共感できるものでしたし、何より人は生まれながらに孤独であるが、作品を通して繋がっている感覚を大切にしていることが印象的でした。
「世界中に、本や映画や音楽は無数にある。それらを全て体験するのは、到底無理だ。だから、自分が死ぬまでに、どんなものと出会えるか、というのが僕の人生において、重要な意味を持っている。」
「出会いというのは偶然で、運命的なものだ。どこで何が、どんな縁で繋がっているのかわからない。だから僕は、ただ漠然と待っているのではなく、自らの意志で行動し、選択した上での出会いを大事にしたいと思うのだ。これは、人との出会いと同じだ。」本書12pより引用
何かをクリエイトする行為は、これまで影響を受けた作品(MEME)を次に受け継ぐこと。過去に経験した体験や感動をアウトプットし別の誰かに渡していくこと。
この本を読んで任天堂のマリオやゼルダの生みの親である宮本茂さんがファミ通のインタビュー(参考)で糸井重里さんの言葉を引用しつつ、クリエイターと呼べるのは神様だけで自分たちは編集(エディット)をしている、と述べたことを連想しました。全くのゼロからクリエイトする人はそうそう居ない。過去に自分が受けた体験を栄養に何かを作り出していく。
本書は自分の知らない作品を見つけるきっかけとなるのはもちろんですが、私はブログで文章を書いている人間の端くれとして、何か作品紹介をする時に「いかに個人的なエピソードを絡めて誰かに作品を紹介するか」の大切さ、重要性を再認識した一冊でした。
参考・出典
・小島秀夫 (@Kojima_Hideo) – Twitter
・ミーム(Wikipedia)
・そうだ、任天堂・宮本茂さんに聞いてみよう──ビデオゲームのこの40年、マリオと任天堂の“らしさ”と今後【インタビュー】
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