人生の幸福度を測る一つの指標として「いかに熱中している時間を増やすか」があります。誰しも何かに夢中になり、あっとう間に時間が経ってしまった経験があると思います。その時間はすごく充実感もあり、幸福感も感じられるのですが、心理学者ミハイ・チクセントミハイはこの熱中・没頭の時間を「フロー状態」という概念で定義しました。人はこのフロー状態の時間が長ければ長いほど幸せを感じるのです。本記事はその「フロー状態」についてまとめました。
目次(Contents)
フローの定義
ミハイチクセントミハイの楽しみの社会学「Beyond boredom and Anxiety .1975」の中で、フロー体験は
「何かを創造的に達成することや高度な能力を発揮して満足した爽快な感覚」ミハイチクセントミハイ 楽しみの社会学 Beyond boredom and Anxiety .1975
と定義されています。例えば以下のような体験がフローをもたらす活動として考えられるでしょう。
・スポーツをしている時のゾーンに入る感覚。
・ゲーム、映画に没頭する。
・読書の世界にのめり込む。
・絵を描く。文章を書く。
・楽器を演奏する。
これらの活動に共通するフローに入るための特徴などをまとめてみます。
1.具体的かつ明確で期限がある目標に向かっているか
「自分はこれがしたい、これを成し遂げてみたい」という明確な目的があるほどフロー状態に入りやすくなります。人は漠然と生きていると無意識にダラダラ流されてしまい、気づいたら何年も経ってしまいがちです。目標を決める際には、いついつまでにと期限を決めるとなお良いです(締め切り効果)。
2.取り組む物事が限定されているか
フローに入る為にはあれこれ手を出してはダメで、「これをやる!」と決めた一つのことにやることを絞った方がフローに入りやすくなります。何をするかではなく、何をしないかが重要。注意を分散させるスマートフォンの通知などはフローの大敵です。
3.活動に没頭して自己意識が低下しているか
これはまさに寝食を忘れて目の前の物事に取り組んでいるかどうかです。フロー状態に入ると活動に没頭して自己意識が低下するため、自分のことが気にならなくなります。目の前の活動に集中すればするほど、自分の意識と活動が融合している一体感のような感覚を得ることがあります。そしてこれは時間感覚さえも忘れさせます。
4.時間圧縮感覚があるか
自分が好きな活動をしているとき「あっという間に時間が経っていた」という経験があると思いますが、まさにそのことです。フロー状態に入っている間は時間があっと言う間に過ぎてしまいます。「気づいたら2時間経っていた」という感覚があればその活動をしている間フローに入っていたことになります。アニメーション監督の宮崎駿さんは自著の中で創作活動をしていると時間がタイムマシンに乗ったかのように過ぎていくと述べています。
参考:全クリエイター必読の書 久石譲「感動をつくれますか?」 まとめ・要約・レビュー
5.結果の可視化、フィードバックがあるかどうか
これはゲーミフィケーションの考え方にも通じるのですが、自分が取り組む目の前のことが「達成するとどのような成果が出て、失敗したときにはどのようなフィードバックがもらえるのか」を見えるようにしておく必要があります。ゲームだと解決すべきクエストがあり敵がいて、困難を乗り越えることでレベルアップなどのご褒美がもらえます。達成に失敗した時もすぐにフィードバックがもらえます。自分がどれだけ頑張ったか、その結果どのような成果が出たのかを可視化しておくことが重要。この点に関してはスマフォゲームは非常に良くできています。
参考:【書評と要約】幸せな未来は「ゲーム」が創る ジェイン・マクゴニガル ゲームで得たものを現実世界にどう活かすか ゲームデザインとポジティブ心理学からの知見 人が本能的に求める持続的な幸福とは何かを知る
6.難しくもなく、易しくも無い難易度であるか
フローに入る為には取り組む難易度も重要です。難しすぎても簡単すぎてもいけない、ちょっと頑張れば自分で乗り越えられる難易度のものに取り組むとフロー状態に入りやすくなります。50パーセントぐらいの理解度のもの、知っている知識が5割、知らない知識が5割だとちょうど良い難易度になります。私が直近で体験したものですと、プログラミング系の本で最初はちんぷんかんぷんで分からない本でも知識が多少身に付いた状態で再読すると「分かるようで分からないような絶妙なバランス」が快感になり最後まで一気に読んでしまうこともありました。仕事でも何でも、半分ぐらい未知の領域(挑戦領域)があった方が挑戦しがいもあり成長します。
7.自分がその活動をコントロールできている感覚があるか
自分がその活動に主体的に行動出来て、状況をコントロールしている感覚もフロー状態に入るのに重要です。人からやらされるのではなく、自分からやりたいと思っているか。「自分はこれをこうしたいんだ」という自分主体で物事を決めていけるという感覚が熱中と没頭を生みます。自分の行動で結果が変わるような、その活動に対して主導権を持っている感覚と考えてもいいでしょう。この点でもゲームは良くできています。
8.活動そのものが楽しいかどうか
考えてみれば当たり前のことですが、活動そのものを楽しめていることもフロー状態に入るには重要です。活動そのものに価値を感じられるか、活動の結果如何にかかわらず、その行動自体が面白いかどうか。「〜しなければ」のように、義務になってしまうのではなく、今やっていることに価値を感じられて、活動そのものからご褒美を得る感覚があればフロー状態に入りやすくなります。私が尊敬している任天堂の元社長の故岩田聡さんもご褒美回路という概念を使って、自分にとって何が向いているのか、何を仕事にしたら良いのかについて考えを述べています。
参考:故 岩田聡 元任天堂社長 記事まとめ (インタビュー、書籍)
9.邪魔が入らない環境にあるか
他人の声がけや騒音など余計な邪魔が入らない環境で活動していることも重要です。メールの着信や通知など邪魔が入るとフローが途切れてしまいます。集中したい時は話しかけられないように場所を変えたり、スマフォや携帯の通知は切った方がいいですね。この集中力についてはカルニューポートさんが著書の中で詳細に述べています。
参考:【まとめと要約】集中力に関する洞察を得られる 「大事なことに集中する。」カル・ニューポート ダイヤモンド社
フローの燃え尽きに注意
フロー体験は人に幸福をもたらしますが、人はずっとフローに入り続ける事はできません。特にビデオゲーム中毒の文脈では、あまりに多いフロー状態は心身のエネルギーを使い切ってしまう事が示唆されています。燃え尽き症候群になって無気力状態になることもあるので、あまりに長いフロー状態に依存するのではなく、日常生活の他の行動(運動、睡眠、良好な人間関係)などとのバランスを保つ事が重要です。
参考:【書評と要約】幸せな未来は「ゲーム」が創る ジェイン・マクゴニガル ゲームで得たものを現実世界にどう活かすか ゲームデザインとポジティブ心理学からの知見 人が本能的に求める持続的な幸福とは何かを知る
フロー状態は燃え尽きといった注意点もあるものの、やりがいを感じられる行動や自分に向いた職業選択を決めるにあたっての大きな指標となることは間違いありません。
参考・出典
・フロー(心理学)Wikipedia
・ミハイ・チクセントミハイ(Csíkszentmihályi) Wikipedia フロー状態を提唱した心理学者
・フロー体験入門―楽しみと創造の心理学 M.チクセントミハイ 世界思想社 2010-05-10
・幸せな未来は「ゲーム」が創る ジェイン・マクゴニガル/藤本徹 早川書房 2011年10月